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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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125・キオ砦

 クリュース国内での軍隊同士の戦いの場合、まず互いに弓での応酬を邪魔しあうところから始まる。

 今回、キオ砦側にもグローディ軍側にも、矢避け役には風の神マクデータの神官がついていた。魔法ギルドがついている王が出す軍でもない限りは魔法使いが戦争参加なんて滅多にないから領地単位の軍の場合は大抵マクデータの神官になるのだが、ともかく互いに風を使って矢を妨害する場合、必然的に風がぶつかりあって矢は無茶苦茶な方向へ飛んでいく事になる。

 ただ当然、風での妨害がほぼ互角になると、地形等で有利不利は決まる。

 そうなれば元からちゃんと作られたキオ砦にくらべて、臨時の柵と櫓しかないグローディ軍の方が不利ではある。

 とはいえそれは単に互いの陣を比べた場合の話で、さすがにグローディ側もキオ砦からいくら魔法ありだといっても矢が届くような距離には陣を置かない。だから当然、グローディ軍が攻撃を仕掛けにいくのは陣を出ていかなくてはならない訳で、グローディは単なる不利というより圧倒的に不利と言えた。


 ……だがその状況で戦闘になる事が分かっているセイネリアが、カリン達に何の策も与えていないという事はあり得なかった。


「なんていうか、互いに対策しあうと結局対策しない同士の戦いとあんま変わんねぇって奴だよなこれ」


 エルは苦笑しながら言った。

 グローディ軍は盾――というか矢避けの板を持って前と上を守ってキオ砦に近づいていく。近づくまではマクデータの神官が風で向うからの矢をほぼ払ってくれるから殆ど矢がくることはないが、ある程度まで近づいたらその場で止まって密集して防御を固める。そこから弓矢部隊が板の隙間から矢を撃ち始めることになるが……そこで神官は矢避けの風をやめて、放たれる矢の内の一本だけに風を乗せることに仕事を切り替えるのだ。

 つまり広い範囲に風を起こす代わり、たった一本の矢を集中して風で守る事で向うの防御の風を突っ切って届かせる訳である。

 当然のことながら広範囲の風よりも範囲を絞った風の方が強い力を乗せられる。いくら向うが強い風で矢を払おうとしても、たった一本だけに風を乗せて飛ばせば止められるものではない。向うとしては他の矢を避けるために結局全体を風で守るしかないからその一本に集中する訳にいかない。


 だから、一度に一本づつとはいえ向うに矢が届く。神官がわざわざ風で誘導しているから外れる事なくほぼ砦の上にまで届く。

 そうなればキオ砦の連中も矢は届かないという前提の行動は取りにくくなる。

 しかもこちらが届かせるその一本は特殊矢だから向うとしては何がくるかと行動が慎重にならざる得ない。


「お、光ってる光ってる、さて何人まともに見たかね」


 どうやら今度はリパの光石を括り付けた矢が中に入ったらしい。暫く周辺の壁から人影が消えたから数人目をやられたのは確かだろう。

 グローディ兵達から笑い声が上がる。


「次は匂い系いきますので注意してくださいっ」


 言われて言った人間の周囲の連中が鼻をつまむ。神官も笑いながら鼻をつまんで術の準備をする。

 特種矢だが、エーリジャがよく使う光石の矢はまず使うとして、他に何か面白そうなのがないかと案を事前に兵達から募っていた。香辛料を入れた袋をつける、酷い臭いのものを括り付ける等々片端から作ってみて向うにお見舞いしてやっている訳だが、不発するものもたまにあるものの向うの反応がいろいろあって面白い。

 兵達は向うの反応もだが誰の案だというのでも盛り上がり、神官役も滅多にやらない術の使い方を楽しんでいるようで顔が笑っている。


「お、余程臭かったらしいな、向うの風が止まったぞ」

「多分風で上の臭い払ってんじゃないか?」


 笑っている兵達だが、向うの風が再開して臭いがこちらに戻されてくるとこちらからも悲鳴が上がる。……まぁこういうこともある。とはいえ臭いのもとが向うだから、いくらこちらに風を飛ばしても向うはもっと臭い筈だが。


 戦争をしている、というよりどちらかといえば嫌がらせをしているような攻撃ともいえない攻撃ばかりをしているのもあってか、兵士達の表情は割合緩い。

 ただ向うもやられてばかりではなく、途中からはこちらのマネをして特殊矢を撃ってきてもいた。ただしこちらの場合、いざとなったら移動するという手が使えるし基本矢は防いでる板に刺さるからそこまで効果は出ていなかった。


 とはいえグローディ側に完全に被害がない、ということもない。運悪く矢が当たって怪我をした者はいる。

 それでも互いに相手に大きい被害を出す訳にはいかないから、こうして嫌がらせの矢合戦をしているという訳だ。


「ちぇ、俺も弓をもう少しちゃんと使えるようにしときゃよかったな」


 そんな愚痴を言っているのはセイネリアの身代わり役をやったガタイのいい男だ。相方のエーリジャの身代わりをやった男の方が弓役として参加出来る分羨ましがっているらしい。やたらとノリ気で攻撃部隊に志願してくれた彼らだが、弓役以外は全力で矢を防ぐ板を担いで構える事だけだからまぁ愚痴りたい気分は分かる。


「次の矢は例の超煙玉ですっ」


 矢を構えた弓兵の一人が言う。これは募集した案の中でもちょっと手間が掛かっていて、複数の煙玉をコパの実の殻に詰めて鏃の代わりに付けるというものだった。問題は矢の先端が大きい分風の影響を受けやすい事で、それを分かっているからかマクデータの神官が気合いの入った返事をする。

 矢は放たれて、皆が見守る中、どうにか砦の上に届くとそれだけで歓声が上がる。更には上手く実はぶつかって弾けたらしく、砦の上に煙が見えれば再び歓声が上がる。


 だが、そうして皆でキオ砦の観察をしているところで……砦の上に、唐突に黄色い大きな旗が立てられた。

 あまりに想定外の事だったからすぐに反応できなかったが、それは確かに停戦を呼びかける印の旗だった。


ってことでエル達の方はこういうちょっと馬鹿馬鹿しい戦いをしていました。

板に隠れて十分治癒する余裕があるのでエルがついていったという。

次回は交渉も終わって勝利の宴をするセイネリア達と蛮族の一行の話です。


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