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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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116・騎士団襲撃3

 あきらかに人間の足音とは違う重量のある地響きが聞こえてくる。きたか、とセイネリアはそちらに目を凝らす。そう、こちらにはない兵力として向うには騎馬がいる。素で当たれば人間など文字通り蹴散らされるだろう。

 けれど対策を考えてきていない訳でもない。

 馬というのは臆病な生き物だ、基本脅せばすぐに逃げる。それをさせないのが上に乗る騎士の技量だが――この薄暗い中ではただでさえ兜で視界の悪い騎士の視界は更に悪くなって対応が遅れる。だが馬は人より夜目が利く。


 馬の足音が聞こえてきた事で、蛮族達は背負っていた盾を手に取った。そうして馬に向けて盾の裏側を見せるように掲げた。


「オー、オー、オー、オー」


 盾を出来るだけ高く持ちあげ、脅すように声を上げる、足で地面を叩く。

 表が黒く塗られた盾の裏には、実は大きな顔が描かれていた。これは蛮族達が普段から動物を威嚇する為に使うものだそうだ。

 馬の足音が乱れる。嘶きが聞こえて、騎士の悲鳴が聞こえる。

 思った通り、不気味な盾の絵に気づいた馬達は動揺した。足を止めて騎士を振り落とすもの、急いで方向転換をしてこちらから逃げようとするもの、驚いてひっくりかえるもの。きちんとした騎兵部隊ならばこんな手で全てを止めるのは難しいが、蛮族との大規模戦闘がないこの辺りではそもそもクリュースの精鋭と言える槍騎兵部隊は最初からない。馬の視界を制限する装備もつけていない、ただ馬で蹴散らしてやるつもり程度の連中ならこんな馬鹿馬鹿しい手でも一度だけなら通用するものだ。


 向かって来た騎馬は6、7騎程か、馬達は全て倒れるか逃げて行き、落ちた騎士には蛮族が襲い掛かる。

 騎馬の後に続くように歩兵連中がやってきたものの、逃げて突っ込んでくる馬に混乱してこちらと接触する前に陣形は崩れていた。当然、その混乱を狙って蛮族達が次々に兵士を殺していく。そうすればこちらへ向かう兵士の群れは、逆にこちらから逃げる群れとなる。


――これは勝ったな。


 今の連中が思ったより数がいて隊列を組んでやってきたところからして、もしかしたら先行部隊が囮でこちらが本隊というのは最初から読まれていた可能性はある。だがどちらにしろ向うの戦力が数も質も足りな過ぎた。

 後の不確定要素と言えばどれだけ腕のいい傭兵連中がいるかくらいだが、ここまでの兵の数をみれば傭兵達もそう多くはないと見ていい。数がいなければ余程の者がいない限りは問題なく、いたとしてもセイネリアが行けばいいだけだ。


「早く建物の方へ、出来るのが数人暴れています」


 そこで姿を見せずに、聞こえてきた声はネイサーだった。


「先行部隊の連中は?」

「向うは大丈夫です。どうやら強そうな連中は建物の守りに回されてるらしいです」


 ネイサーとガーネッド、そしてレンファン達は先行部隊と共に突入していた。彼はおそらく向うに大した兵はいないと見て戦闘参加せずに敷地内を確認してからこちらに来たのだろう。


「分かったすぐ行く。あんたは引き続き状況確認と他の連中のフォローを頼む」

「はい」


 セイネリアはすぐに建物に向かって走り出した。向うの兵士が大崩れしたというのもあって、蛮族達も逃げる兵士を追ってかなりの数がそちらに向かっていた。勝っているせいで蛮族達は勢いづいていて、そこからすれば周囲を見ながら向かっていたセイネリアは少々遅れてしまっていた。


「うわぁあっ」


 そこで、セイネリアに向かってくる者がいた。小柄なせいで見難かったが、どうやらまだ逃げずにいたものがいたらしい。

 セイネリアは走っている勢いのまま突き出された槍を避け、そのまま踏み込んで剣を刺す。剣を払って死体を投げ捨てればその少し先にももう一人兵がいた。だがそれは仲間が死んだのを見るとすぐに逃げ出した。その方向が建物の方へではなく村方面だったからセイネリアは無視しようとしたが……傍にいた黒の部族の男が追いかけて行こうとしたからその背の服を掴んで止めた。

 男は最初睨む勢いで振り向いたが、止めたのがセイネリアだと分かると大人しく追いかけるのを止めた。


――まったく。


 セイネリアの言う事は無条件で聞いてくれるから放っておいてはいるが、常に傍についてこようとするこの男は正直邪魔ではある。とはいえどうしても蛮族達に指示を出したい時には有用だからと諦めてはいた。


「いくぞ」


 こちらが建物に向けて走り出せば、黒の部族の男もやはりすぐ後ろについてきた。


次回はちらっとレンファンのシーンがあって、建物前についたセイネリアの話になります。

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