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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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105・会談7

「ようやく見つけたぜ、連れてくのはそっちのお嬢様でいいのか?」


 ザラッツ達が壊れた壁を越して本館の敷地から出れば、急に近くに現れて掛けられた声に思わず驚く。


「あぁ、こちらのお二人を」


 ザラッツは思わず身構えてしまったが、さすがに動じなかったレンファンはそう言ってディエナと侍女のリシェラを前に出した。クーア神官であるエデンスがそれで近づいてくる。


「了解、んじゃこれ渡しとくからあんた達は自力で逃げてくれ」


 言って彼が差し出したのは鉤爪付きの縄だった。つまりこれを使って壁をよじ登って逃げろと言う事なのだろう。


「いいか、向うだ、ここを真っすぐ突っ切れ、迂回しないようにな。こっちが外に出たら空が光りだしてまた落とし始めるからな。もし警備がいて別の壁から登る場合は出来るだけ壁沿いに移動しろ」

「了解」


 縄をレンファンが受け取る。

 ザラッツには『落とし始める』の意味は分からなかったが、とにかく指示に従えばいいのだというのは分かる。


「じゃ、いくぞ」


 エデンスがディエナとリシェラの手を取ろうとする。ディエナが不安そうに振り向いてザラッツを見る。それにザラッツは笑ってみせた。


「大丈夫です、あの男の事ですから無事逃げられるようにきっと何から何まで準備してあるでしょう」


 言えばディエナは侍女と一緒にエデンスの手を掴み、そうして最後にまた振り向いた。


「必ず、無事に……」


 けれど言葉はそこで消える、その姿と共に。

 それでザラッツは大きく安堵の息を吐いてから微笑んだ。少なくともディエナが無事逃げられるならザラッツがここに来た目的は果たされる。


 そう……例え、ここで死んだとしても、これで悔いるものはない。


 セイネリアさえいれば、きっとこの後のことはどうにかしてくれる筈だった。そしてその彼のにためにザラッツが今やれることと言えば彼の仲間、レンファンを何があっても無事ここから逃がすことだろう。


「行くぞ」


 相変わらず前を行こうとするレンファンに、だがザラッツは首を振った。


「行ってください」

「……何を言ってる?」

「私の未来を見て、納得出来たら行ってください」


 それで彼女は本気でこちらの未来を見ているのか無言になる。それからくるりと背を向けた。


「死ぬ気はいいが、最後まで足掻くと約束しろ」

「分かりました」


 こちらの答えを聞くと彼女は走っていった、これでいい。

 ザラッツは剣を構えて崩れた壁の向う側を覗く。何故か先ほど、追手は別の兵に足止めされていたが、それでも光が消えたせいなのか思った通り兵がこちらを探して歩き回っていた。そしてそうなれば、遅かれ早かれここの壁が崩れている事にも気付く筈だ。


「おいっ、向うが崩れているぞ」


 案の定、見ている間に一人の兵が気付いて他の連中を集める。

 ぱっと見では5人……それなら行けるかとザラッツは思う。

 壁に背をつけ、耳に意識を集中する。


「ここから逃げたか?」

「おそらくな」


 そうして一人の兵が壁を超えようとしたところで、ザラッツはその兵に向かって横から剣を突き出した。


「がぁっ」

「何だ?」


 壁の向う、見れば兵は6人になっていた。だが一人今倒したから結局5人だ。


「いたぞっ」

「お前はジェレ様に知らせろっ」

「貴様ぁっ」


 1人が離れていったが勿論それを追いはしない。

 残った4人の内の一人が斬りかかってくるが、その剣を受けて腹を蹴り飛ばせば倒れて仲間の1人に支えられて後ろへ下がる。そうすれば次の者が斬りかかってくるが、それは横から無理やり入り込んだ体勢のためか隙が多かった。その腹に剣を刺して、倒れかかってきそうなそれを振り捨てる。死体は壁の崩れた上に落ちて、更にここを通り難くしてくれた。


――さて、どれくらい持つか。


 ザラッツは自分の腕にそれなりの自信はあるが、大勢に囲まれても蹴散らせるような力があるとは思っていない。

 けれどこの場所であれば一対一を保てる。囲まれなければ少なくとも一般兵程度は体力が持つ限りこの場で引き留められる。後ろから来られたら終わりだが、どうも今のところこちら側には兵の姿は見当たらないどころか気配一つなかった。


ザラッツの後ろっていうか内壁の外にいる兵でうろついてるようなのはセイネリア達の方に行ってる訳ですね。

ちなみにレンファンはディエナには敬語を使いますがザラッツには敬語を使いません。

次回はザラッツの話の続き。


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