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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二章:首都と出会いの章
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25・『犬』と呼ばれた者達

 部屋の扉を開けて、一見いつも通り静まり返ったその中を見て、セイネリアは僅かに口元に笑みを引く。それから歩いてベッドへ行き、そこに腰かけてふぅと一つ息をついてから顔を上げ、暗闇に溶け込んでいる影に声を掛けた。


「殺しにくるなら、前のように針を仕込んでおいた方が成功する確率は高いと思うぞ」

「……あれは本気で殺すつもりではありませんでしたから」

「だろうな、こちらを試したんだろ」


 暗闇から姿を現した女の顔に表情はない。暗殺者らしい気配と感情を消した姿で、アカネはそこに立っていた。


「それで、今回は俺を本気で殺すつもりなのか?」

「どうでしょう、貴方の返答次第ですが」


 セイネリアはそこで喉を震わせて笑う。


「ナスロウ卿を殺すな、か?」


 そこまで完璧に暗殺者の表情を作っていた女の顔に動揺が浮かぶ。セイネリアは更に声を上げて笑った。


「馬鹿だな、それはあのジジイ自身が喜ばないだろ。それにここで俺があのジジイを殺さなかったとして問題が先送りになるだけだ」

「けれど、貴方があの方を殺さなければまだ暫くは今のまま過ごせるでしょう」

「まぁそうだろうが、それももうそんなに長くはないぞ。俺が殺さない、次の従者候補を送れもしないとなれば、それこそ後はお前自身に暗殺命令が出るだけだろうしな」


 そこで黙る女に、セイネリアは侮蔑の視線を向ける。

 あぁ本当に馬鹿馬鹿しい――望みがあるならその望みを叶えるために行動すればいいのだ。無駄に時間を稼いで問題を先送りにしても待っている未来は何も変わらない。ただ今が出来るだけ長く続けばいいとしか考えないから、利用されるだけの未来しかない。


「ナスロウのジジイを本気で助けたいのならもっと頭を使え。あのジジイとお前の主を騙しきるくらいの覚悟をしろ、それが出来ないのなら……お前は結局ただの『犬』だ、『犬』としての人生以上を送れない」


 彼女はただ何も言わずに立っている。

 セイネリアは女がいる事を無視して、その場で服を脱ぐとベッドに潜りこんだ。


「悪いが明日が早いんでな、俺はさっさと寝させてもらう。建設的な部分が何もないお前の話に付き合う気はない」


 そうして彼女に背を向ければ、やがて扉の音がして、アカネがここから出て行った事をセイネリアは知った。





 翌朝、起きてすぐに窓を開ければ外は朝靄に包まれていて、セイネリアは僅かに顔を顰めた。だが支度をして外に出て、それから軽く体を解している間に靄はかなり晴れた為、どうやら面倒な事にはならなくて済んだかと安堵する。

 ……それなのに、そこで少し気分が良くなったところで気分の良くない人影を見つけてセイネリアは顔をまた顰める事になった。前の時は放置をしたが、今日ここでへたな細工をされると気分が悪いどころの話ではない。セイネリアはその人影の行くだろう方向に先回りをし、剣を構えて男の行く道を塞いだ。

 すぐ反応して、植木の影を走っていた男の足が少し前で止まる。

 そこからセイネリアが走り込んで人影の足元を払えば、上へと飛んでその姿が露わになった。


「なるほど、やはりお前か」


 現れた人影は馬番の助手をしていた男で、この屋敷の使用人の中では30代くらいと割合若い。だからおそらくそうだろうと思ったものの、アカネより前からここにいたと聞いていたから疑うだけに留めていた。


「参りましたね、ここで貴方に気付かれたら私の仕事がだいなしです」


 大人しく正体を現した男に、セイネリアは剣を納めた。


「お前も『犬』か」

「左様です」

「ならひとつ言っておく、これからのあのジジイとの勝負にヘタに手を出すな」

「それは困ります、貴方を確実に勝たせてナスロウ卿が死ぬようにしろというのが我が主の命なのですが」

「問題ない、俺が勝ってあのジジイは死ぬ」

「自信がおありなようですが、貴方はまだ確実に勝てる程強くないのでは?」


 それには唇を歪め、人から獣の様だと呼ばれる琥珀の瞳で男をじっと見据えて言う。


「いや、確実にあのジジイは死ぬさ、その為に本気でと言ったんだ。その理由はお前も分かっているんだろ?」



次回はナスロウ卿との戦いです。

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