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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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101・会談3

「で、この石っころをどうするんだ?」


 スローデンとザラッツが夕食の席で顔を合わせる少し前のこと。宿の中でクーア神官エデンスは何を考えてるのか分からない若造――セイネリアに、今回の作戦における彼の仕事の説明を受けていた。石というのはこの男の指示で宿の部屋に集められた大量の小石の山のことだ。ちなみにこの部屋だけでなく借りてる他の部屋にもそれぞれ同じような山がある。


「領主の館へは転送で直接入ることは出来ない」

「その通りだ」


 至極当たり前の事を言ってきたセイネリアに、エデンスはそう返す。


 権力者の家などでは断魔石があちこちに埋め込まれているから基本的には直接転送で侵入する事は出来ない。理論的には断魔石の効果が途切れている箇所さえ分かればその穴から穴を伝って入ることは出来るが、調べて穴を自力で見つけようとするなら労力から現実的ではない。だからお抱えのクーア神官がいるような偉い貴族様の家だと、家の設計時に穴の位置を記録しておいてその神官だけに知らせておくことになっている。


「だが断魔石の効果範囲外にはモノを転送できるだろ?」

「それは当然そうだが、範囲外に転送しても何もならないだろ」


 そこで黒い男は笑う。そうして人差し指を上に向ける。


「上方向の石の効果範囲外へ転送すれば、範囲内へ落ちるじゃないか」


 それでエデンスも彼の言うことを理解した。あぁ確かに、という呟きと共に。


「こんな小さな石ころでも、空高くから落ちてくれば脅威だ。両手一掴み分の小石を上から落せば、下の連中は驚いて逃げ惑ってくれる」

「確かに……そうだろうな」


 断魔石の効果範囲内には転送できない、ならばその上に転送すればいいというだけの話なのだが確かにどうして誰もそれを思いつかなかったのか不思議なくらいだ。それだけ転送といえば目的地に移動する、という発想で思考が停止していたのだろう。


「落す場所はこの印の通りだ、大体でいい。重要なのは落さないと決めている場所を避けることで、落す印がついている周辺に適当に小石を落してくれればいい。どの印に落すか順番も気にする必要はない、あんたの気分で適度にバラけさせるように落してくれ」


 そうして彼が渡してくれたのはザウラ卿の館の敷地内の地図だが、勿論中が正確に描かれているものではなかった。敷地の輪郭が描かれているだけのものに外から見ても分かりやすい建物がある位置が大雑把に掛かれている程度のものだ。落すのは主に城壁の上や建物の近く……つまり、見張りが居そうな箇所というところだろう。

 彼がガーネッドの仲間に領主の館に比較的近いこの宿を取らせておいたのは様子を見張るためかと思っていた程度だったが、まさかここから直接攻撃させるなんてさすがに思いつかなかった。まったく恐ろしいなとしか思えない。


「開始の合図は建物の周囲が光り出してからだ。ここからならよく見えるだろ。それで光が止んでからも3,4か所落として、それから例の場所に来てくれ」

「了解」


 光というのは矢にいろいろな神殿の光石をくくりつけたものを飛ばして空で光らせるということで、その役を担っているのはエーリジャと彼の連れてきた蛮族の二人だ。

 勿論石を落すのも光石も騒ぎを起こすことが目的で、その騒ぎに紛れて館に侵入するのが本命ではある。更に言えば侵入した者の内エデンス以外はただの陽動役だ。蛮族達にしてみればそれで仲間を殺した連中の手先を殺して回れるのだから文句などあろうはずがない。殺しにいく、は嘘ではないのだから。


 考えれば考える程エデンスはぞっとする。けれどそれと同時に気分が高揚してくる。本当に面白い男だ――と部屋を出ていく黒い不気味な男を見ていれば、自然と口角が上がっていた。


館の外で起こってた騒ぎはこんなとこです。

次回はザラッツの事情とか。

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