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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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97・クバンの街

 ザウラ領主スローデンは見ていた書面から目を離すと、それを机に置いて一つ息を大きく吐いた。


――大丈夫だ、今は皆予定通り進んでいる。問題はない。


 戦争が始まるという状況においても、ザウラ領都クバンの街中は特に混乱した様子はみえなかった。ただ多少街の出入りの検査が厳しくなった事と、グローディ領へ向かう街道が封鎖された為、首都からくる商人が減って主に魔法アイテムや高級品等が市場で品薄になってはいた。今はまだその程度だから領民が困る事はないが、収穫期に首都へ物を売りにいけなくなると一気に不満が膨れあがるのは予想出来る。


 位置関係的にグローディ側へ行けないとなると、首都との道が断たれるため流通的な問題できついのはザウラの方である。そのため首都からスザーナ経由で来る商人を増やす事はスザーナだけではなくザウラにも大きな意味があった。だが盗賊騒ぎが思ったより早く鎮圧されてしまったせいで、スザーナルートを使う商人が増えて道の整備が行われる……というところまではいかなかった。これは長期的に見ると少々痛い。


 このまま計画通り上手くいけば問題ないが、もし実際に戦争となれば現状だとザウラは長引けば長引く程不利になっていくだろう。食料はほぼ自領でまかなえたとしても、戦争の為の消耗品の補充が追いつかない。スザーナ経由やクーア神殿からの輸送だけに頼れば足りない上に価格が数倍に跳ね上がる、そうなれば戦い続けるのは無理だ。

 戦うなら一気に向こうを攻め落とせるくらいの兵力差がなければ最終的には負ける。それを分かっているから戦わずしてグローディを乗っ取る方法をスローデンは考えたのだ。


「ザラッツが私に直接会いたいと言ってきた」


 そこで丁度部屋に入ってきたジェレに、つい先程キオ砦からの使者が来て置いていった文書の内容をスローデンは話した。


「どう返事されるのですか?」

「会うさ、その身の安全は保証するからぜひいらしてください、とでも書いて招待するつもりだ」

「何かたくらんでいる可能性は?」

「なくはない。だがこちらにとって都合良くもある、断る理由はないだろう」


 ザラッツの事は出来る限り詳しく調べさせたから、どういう人間かだいたい分かってはいるつもりではある。とはいえ実際会わないと確定までは出来ない。

 ザラッツに接触させた者からの話では、こちらの提案には乗り気で恐らく従ってくれるだろうとの事だったが、それが完全に信用できるかどうかはやはり自分の目で見て確かめた方がいい。


 また見方を変えれば、向こうもこちらを本気で信用していいかどうかを見極めるために実際に会いたいと言い出したとも考えられる。それならそれで、スローデンが自らザラッツを説得すればいいだけの話である。


 どちらにしろ、グローディ卿の代理として彼がクバンへやってきて話し合う――という流れ自体は当初から想定していたものだ。

 グローディ側が謝罪と共にまず兵を退き、その後に今回の件についてどう決着をつけるか互いに要望と提案を書面にて出し合う。そこである程度の折り合いがついてから同意書のサインをかわすために話し合いの席を設ける――その予定から、文書での相談手順が飛んでグローディ軍の撤退時期が後になっただけの話だ。


「話し合いの席には私も護衛として同席してよろしいでしょうか?」

「構わないが、どうした?」

「相手はマトモな騎士らしいですから、まさかの場合を考えてです」

「私さえ殺せば解決すると考えて暗殺か――そういう単純な人間ではないと思うが」

「念のためです」


 まぁ確かに――スローデンは自分が戦闘方面の能力がほぼ皆無なのは自覚していた。向こうが真っ当な騎士であるなら、近づく機会さえあれば素手でも自分を殺せるだろう。勿論その後、こちらの兵に殺される覚悟があればだが。ただ相当に真面目な人間だそうだから、あくまでグローディに忠義を尽くすつもりならそういう覚悟で来る事も考えられはする。


「そうだな……なら、ディエナも同席させよう」


 スローデンを殺すために死ぬ覚悟があったとしても、彼女がどうなってもいい覚悟は出来てはいないだろう。これからの計画のためにディエナを殺せはしないが、生きて子さえ産める体であればスローデンにとっては彼女が五体満足の必要はない。


 考えて冷たい笑みを唇に浮かべるスローデンを、ジェレが表情もなく見つめていた。


次回はセイネリア側の話。流れ的にどういう方向に向かうかは分かっていると思いますが。


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