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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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92・帰還、ただし……

――まったく何を考えているんだか。


 いつものことながらも、エーリジャはこの黒い男に呆れる。確かに大長おおおさの言った通り、彼ならこの事態も予想しているかもしれないとは思っていたが、それにしても動じなさすぎだ。セイネリアが戻る前に戦争が始まってしまうのはどう考えても都合が悪いだろうに、彼には微塵も困った様子が見えない。


 更に言えば、彼がいない間、ここに残った者達への指示もまた理解が出来なかった。


「あら、やっぱり無事ね。増えたのは男一人……あんたなら女も連れてくると思ってたわ」


 そこでガーネッドとネイサーが中に入ってくる。

 ガーネッドはからからと笑うと、セイネリアの隣に体が付くほど近づいて座った。なんとなくそれでエーリジャはセイネリアから少し距離を取る。


「今回は余計な問題を起こしたくなかったから大人しくしてたさ、それにいい女を物色してる暇もなかった」

「ふ~ん、女なら見境なく手を出す訳でもないのかしら」

「そうだな、いい女だと思わないとその気にはならない」

「あら、なら私は」

「いい女だ」

「ありがと」


 最後の言葉と共にガーネッドがセイネリアに寄り掛かってみせる。カリンに見せてやろうか……とは思うものの、言ったところでカリンも怒りはしないだろうことはエーリジャも分かっている。なにせ、やりとり自身は自然ではあっても、二人とも本気で言っている訳でもない、セイネリアに至っては笑ってもいない、ただの言葉遊びのようなものだろう。エーリジャとしては彼のような女性との付き合い方はしたことがないから理解できないが、幼い頃から娼婦達に囲まれて育った彼の場合はこういう仕事的な割り切った付き合い方の方が普通なのだろう。


「で、そっちの首尾はどうだ? 向こうの了承はとれてるか?」

「えぇ、ちゃんと一人確保しといたわよ」


 そこでセイネリアがちらと後ろにいるネイサーを見るから、大柄な男が慌てて答えた。


「あ、はい、こちらもです。一人、安全に行って帰ってこれるならクリュースへ一度行ってみてもいいと言われました」


 だからエーリジャもついでに答えておく。


「こちらも一人、話はつけてあるよ」


 セイネリアがセセローダ族の村へ行く間、エデンス以外の3人に言っておいた『頼み』は、各自一人づつ違う部族の誰かと親密になっておき、クリュースに帰る時に一緒に連れていけるようにしておいてほしいという内容だった。

 特にネイサーとガーネッドは蛮族出身の親を持つから出来ればその部族の者かその部族の事を知っている者を探してみろと言われていた。確かに、両親に関する事を聞きたいと言えば探して話しかけても不自然さはないし、なにより向こうとしても同じ部族の血が流れていると知れば警戒せずに受け入れてくれ易い。

 ちなみにエーリジャの場合は前に来た時に仲良くなった者の誰かでいいと言われていたが、出来れば部族内でそれなりに発言権がありそうな者だといいという注文がついてはいた。


「あぁ、ならいい。あとは出来るだけ早く出発するぞ」

「それだけど……この状況ならザウラはグローディとの領境を封鎖してる筈よ。どのルートで帰る気?」


 ガーネッドのいう通り、グローディに戻るとすればクバン経由の正規ルートは使えない。そこでエデンスが話に入ってくる。


「ヤバイとこだけは俺が二人づつ送ればいいだろ」

「そういう手もあるけど……グローディ方面に行くだけで止められる可能性はあるから、やっぱり人の多いクバン経由は止めたほうがいいんじゃないかな?」


 商人のふりをするなら特に、クバンからグローディ方面に行こうとするだけで怪しまれて調べられる可能性が高い。だがエーリジャのその言葉をセイネリアは鼻で笑うと、当たり前のように言い放った。


「何を言ってる、別に今グローディに戻る必要はないさ」

「え? いいの?」

「あぁ、今はまだいい」


 そこでエーリジャは考える。

 セイネリアは言っていた、軍を動かしてもまだ開戦は先だと。だから急いで合流しなくてもいいのだろうかと思っても、どうにも彼の意図しているところがエーリジャには読めなかった。


「とりあえずはクバンへ行って情報収集だ」


 それでもセイネリアがそう決めたのなら、ここにいる者で異を唱えるものはいない。翌日早朝、クリュースへと出発することで皆同意した。


次回はグローディ側のエル達の話。


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