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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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91・目的は

 セイネリアがラギ族の村へ帰ると、まず深刻な顔をしたエーリジャがやってきて例の集会所のような建物へと連れて行かれた。

 そこで待っていたのはエデンスと、前回試合の見届け役をやった老人で、後で分かった事だがこの老人は引退した前のラギ族の族長だったらしい。


「よぉ、無事にお帰りかい」


 『見えて』いたろうエデンスが、セイネリアの顔を見た途端に手を上げた。


「あぁ、留守中そっちも無事で良かった」

「まったくだ、ま、こっちはいろいろ勉強できてなかなか有意義だったぞ」


 エデンスは折角ここにいるなら蛮族の事を学びたいと言っていたから、おそらくは物知りらしいこの老人から話を聞いていたのだろう。

 だが彼との会話はそこで終わりとなる。何故ならエーリジャが会話を遮るようにセイネリアの前にきたからだ。


「ガーネッドとネイサーもすぐ来るけど、まず伝えておくと……グローディがザウラに宣戦布告をした」


 座る前に言ってくるあたり、彼としては相当焦っているのだろう。セイネリアは構わずゆっくり座ってから彼に答えた。


「あぁ、そろそろだろうと思ってた」

「君の指示かい?」

「いや、違う」

「ならどうしてそんな落ち着いていられるんだい?」


 らしくなく、こちらを睨む程の顔で見てくる彼にセイネリアは苦笑する。


「まぁ、あんたも座れ。焦ってないのはそれが想定内の事だからだ。それにおそらく、兵は動かしてもすぐに開戦とはならないさ」


 そうすればやっと彼も一息ついて横に座る。

 こちらのやりとりを黙ってみていた老人が笑ってエーリジャに言った。


「そらみろ、その男はやはり驚かなかったろ」

「はい、そのようです」


 それからカカっと笑って、老人は今度はセイネリアの方を見た。


「で、これからお前たちは国に帰る訳か?」

「あぁ、そうなる。目的は一応達成したからな」

「それが、セセローダの者を連れていくことか?」

「そういうことだ」


 例の黒の部族の男も、セセローダ族の二人も後ろに座っている。彼らの恰好――特にセセローダ族の二人はよくある旅人らしいフード付きのマントを羽織っているから、こちらについてクリュースへ行くところまで予想できたのだろう。


「……彼らだけではないのだろ?」


 老人がパイプに火を付けながら聞いてくる。様子だけをみれば一見、あまり興味がなさそうに見えるが、そういう時ほどこちらの腹を探っていると考えたほうがいい。


「その通りだ」


 だからセイネリアは今回は正直に答えてやった。ここは相手に警戒させるより信用して貰わないとならない場面だ。


「何を考えてる?」


 老人が目を細めてこちらを見る。セイネリアは当然今回も嘘はつかない。ただし、全部をいいもしない。


「最初に言った通りだ、こちらはある貴族を追い詰めるための証人が欲しかった。その証人を連れていくのと……ついでに何人か連れていってクリュースという国がどうなっているか見せてやろうと思ってな」

「ここにいればかの国の事はかなり分かるが」

「それでも実際行ってみるのとでは大きく違う。安心しろ、証人の『ついで』だからな、用が済んだら一緒に全員ここまで送り届けてやる。誓ってやってもいい」


 老人は厳しい目でこちらを睨んだが、セイネリアの顔を暫く見てみてから溜息をついた。


「かの地に連れて行ったまま帰さない、という事はないというか」

「あぁ、あくまでただの見学だ。それに……」


 疑いの目を向ける老人に、セイネリアは僅かに笑ってみせた。


「ちゃんとあんた達の元へ帰ってもらわないとこちらも困る」


 勿論別の目的はあるが、少なくとも連れていった者は無事返す――それで老人は納得したらしく、次の言葉は、よかろう、だった。


次回はこのシーンの続きですが、エーリジャ視点。

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