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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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81・火種1

 セイネリアがいない今、エルのやる事は驚く程多かった。……いや、どっちかというとやる事という部分を気苦労に置き換えたほうが正確だろうが。ともかく、面倒なヴィッチェと慣れない連中デルガ・ラッサがいる上に、身代わり役をやったかつてこの領地を荒らしていた盗賊役連中までいる中で、面倒が起きないようによろしくたのむ――というのは言うのは楽だがやる方は大変どころの話ではない。

 特に最後の元雇われ盗賊だった二人が問題だ。彼らが盗賊をしていた連中だというのはザラッツとグローディ卿は知っているそうだが、他の連中にバレるととてつもなく面倒になるため隠しておく必要があった。幸いな事にこの二人がやたらとこちらの言う事に従順で協力的であるからまだいいものの、この屋敷に閉じ込められた状態で放置という訳にもいかないから割と頻繁に顔を出してやったり、外に出る許可をもらって軽く体を動かすのに付き合ったりしてやっていた。


 カリンは相変わらず子供達の護衛をしているが、時折セイネリアから頼まれた調査をするために離れるからその時はエルが子供の相手をしてやりつつ、デルガとラッサが護衛について、ヴィッチェがエイレーンの話し相手をする事になる。

 貴族の上品な貴婦人に対するヴィッチェの言動にハラハラしつつも、子供と遊びながら周囲に気を巡らすのは相当大変なんだからな――と、あのいつもどや顔の黒い男に言ってやりたい気分の日々をエルは過ごしていた。


 そんな中のある日、極秘の話があるとエルはカリンの部屋へと呼ばれた。夜遅くのこの時間に若い女性の部屋……と書くとその系の期待をしてしまうのが男のさがという奴だろうが、勿論エルはそんな期待はしていなかった。いくら何でもアイツの女を寝取る勇気はねーわ、というのもあるがカリンがエルをどういう目で見ているかなんてわかり切っていたからだ。

 だから入った途端彼女の表情にも空気にも色気なんてモノは一切なく、いかにもお仕事モードの真剣な顔でいたのには少しも――いや少しくらいはあったかもしれないが――がっかりはしなかった。だが、その彼女が開口一番言ってきた言葉には首をかしげずにはいられなかった。


「ザラッツの動きに気を付けて貰いたいのです」

「……そりゃいいけど、そらまたどういう理由で?」


 この時エルは、その理由はザラッツの身の安全を考えての事だと思ったのだが。


「ザウラの人間が彼に接触したようです、おそらく彼をザウラ側に引き込もうとしているのでしょう」

「……はぁ?」


 おいおいまて、ザラッツって言ったら実質的なこちらの雇い主な訳でそれが裏切る可能性があるってぇのはどういうことだ?――ちょっと思いもしなかった衝撃発言をイキナリ聞かされて、エルは少々頭が混乱して固まった……後にハッと気づいて聞き返した。


「いやいや待て待てとんでもねーことをさらっと言うな。あーあれだ、そういうのはさっさとそのザウラの人間をとっ捕まえるか、裏切らないように騎士さんに釘さしとくとこじゃねーのか?」


 一応秘密の話ではあるから声はかなり小声にしているが、どうにも語尾が強くなるのは仕方ない。


「いえ、主からの指示ではザラッツについては放っておいていい、と」


 エルは額を押さえた。セイネリアの野郎また何考えてンだ、とは思っても、彼の事だから何か考えがあるのは確実でそれに反して勝手に動こうとはエルも思わない。


「そもそも主はザウラの人間がザラッツへ接触する事を予想していました。その上でもし接触が確認出来たら彼の動きに注意しておけというだけで、後は彼を信用しすぎないよう心がけて今まで通り彼の指示に従っていい、という事でした」

「……なんだそりゃ。いや、信用しすぎないはいいとしてだ、なんであいつはザウラの人間がザラッツを狙うのが分かったんだ?」

「ザウラで向うの人間と接触した段階で、その可能性が高いと判断したそうです」

「へ? ザウラ行った後のあいつから何か伝言でもあったのか?」

「はい、一度呼ばれて話をしました」


 まてまておいおいどういうことだとエルは今度は頭を抱えた。勿論エルは伝言なんか貰ってないからそれもないだろうと思ったが、それにしても呼ばれたとはどういう事だ。セイネリアは実はこっそり帰ってきたのかこっちは無視かよこの野郎……とエルの頭の中ではいろいろ渦巻いていたのだが、それはカリンがあっさりと答えを教えてくれる。


「予めこれを渡されていたので、呼び出し石で呼ばれたら準備をするように言われていました」


 そう言ってカリンが見せてくれたのは何かの魔石で、読めないが文字のようなものが書き込まれていた。


そんな訳でこの章ではあまり目立った見せ場がなかったカリンとエルがプチ活躍してくれる筈。

次回はこの話の続きとジェレの話を少しだけ。


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