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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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80・彼への手紙

 次期領主だったロスハンが亡くなってグローディ卿が倒れた今、ザラッツの仕事は呆れる程多かった。もともとが軍部側の人間であるから文官達の領域には口を出し過ぎないようにはしているが、それでもほぼ領主の代理を務めているため政治に全く関わらない訳にもいかない。提出される書類と報告は一通り彼が確認して、何かイレギュラーがあったり重要事項はグローディ卿自身に聞く、と病気の領主と文官達の間のクッション役のような事をしていた。

 グローディ卿の奥方は既に亡くなっているため、ロスハン亡き後――表向きはこちらも病気という事になっているが――時期領主となるスオートの母親であるエイレーンが権力的には一番上になるのだが、彼女もザラッツを信用して任せると言っているため負担は全部彼に来ていた。


 ただこれだけ部下としては大きすぎる権限を持ってはいても、彼がその地位を利用して私服を肥やそうとしたり領主一家をないがしろにする事はなく、あくまで領主の部下としての態度を取り続けるからこそ彼に対する評価は上がるばかりだった。


 とはいえ、信頼は嬉しくとも彼の負担はどんどん大きくなっているのだが。


――あの男がいなかったら、このまま潰れていたか、逃げ出していたかもしれないな。


 やることが多すぎて身体的にも精神的にも疲れる日々を送っていても、未だにザラッツが仕事をやりきれているのは一番の問題であるザウラとの問題をセイネリアに投げているからであった。あの男なら引き受けたからにはどうにかするだろう――という根拠のない信頼は自分でも驚く程大きいようで、そのせいでそちらに頭を悩ませる必要がない。


 ただの平民として生まれた男が何故あそこまで自分にないモノを『持って』いるのだろう。ザラッツはそこまで上位ではなくとも一応貴族の生まれで、人生のスタート地点では確実にザラッツの方が『持って』いた筈だった。こちらが貴族の馬鹿息子としてのうのうと過ごした若い頃をおそらくあの男はひたすらに強くなるために生きてきた。自分の愚かさを今更どれだけ悔やんでももう自分が彼程の力を手に入れる事は叶わない。


 ザラッツは彼の力を認めている。けれども彼の事は嫌いだ。その理由は単純な嫉妬である事も自覚している。ナスロウ卿からも認められ、味方としているだけでここまで心強く感じるその力が嫉ましい。彼の自らに対するあの自信が羨ましかった。


「俺は自信がなかったからな……」


 一人グローディ卿の執務室で呟いてため息を吐く。勿論いくら代理でも領主の席になど座らない。ザラッツが座るのはグローディ卿がいる時と変わらないいつもの彼のための席だ。人はこの立場にあってさえあくまで忠臣である彼の事を褒めるが、それは何も彼が真面目なせいだけではなかった。

 自分がトップに立って、自分の責任で全てを決める事が怖いからでもあるのだ。

 あくまで自分は部下で最後の決定はその上の人物がする、という事が精神的に楽だからだ。

 多くの人間の運命を左右する状況で、自分が最適な判断を出来る自信がないからだった。


「ナスロウ卿、貴方が私を選んでくださらなかったのはそれが分かっていたから……でしょうか」


 思わずかつて自分にとっては神にも等しい程崇拝していた騎士に問う。やはり貴方は見る目がありました、と苦笑して呟いた。


「だめだな、最近は静かになると自己嫌悪ばかりだ」


 そんな事をしている暇があるなら仕事をするべきだ、彼はそう考えて未処理の書類に手をつける。基本は見て、順調だったり通常通りのものにサインをするだけの仕事だ。ザラッツは文官達からの報告や提案等は基本的にそのまま認める事にしているが、たまに誤魔化しがあったり、やましい事情がありそうな内容が混じっているから確認をしない訳にはいかない。

 そうして、数枚目の文書に手を伸ばしたところで、それが明らかに書類になっていない、単なる手紙だと彼は気づいた。


「この国の政治中枢は腐っている――……」


 貴族が優遇され、平民というだけで役職につけない。無能でも貴族ならば役職につき遊んで金を貰える――それはまさにザラッツが騎士団時代に思っていた事そのままの内容だった。

 勿論、差出人の名前もない。宛名もない。けれど、それが自分に宛てたものだとザラッツには分かった。


ザウラ側がちょっと動いてきました。

次回からはこれの対応でエルやカリンが動き出します。

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