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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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76・ラギ族の村2

 老人の言葉遣いは柔らかいが、その質問には『根拠もなくこちらを疑ったのではないだろうな』と言う脅しの意味がある。


「襲撃の手際がかなりいいことから集団で殺し慣れてる連中で、冒険者を個別に大量に雇ったとは思い難い。傭兵団単位で受けた大仕事の話もない。かといってその貴族が自分の兵を動かしたという話も入ってこないし、使われたろう武器的にも正規軍の仕業の可能性は低いと思われている。更にクリュース国内でその手の仕事を牛耳ってる人間がその仕事に関わってない事も確定している」

「つまり、我らが疑われたのは消去法という奴か?」

「……襲撃者を雇った貴族の側近にあんた達側の人間がいる」


 最後のそれには老人の眉が僅かに上がる。老人は一度パイプを咥えると、煙を吐くのに合わせて大きくため息をついた。

 当然、会話の内容は都度老人の脇にいる連中が翻訳しているから他の蛮族達の間では会話から少し遅れてざわめきが起こっていた。その表情を観察してみれば、怒って声を張り上げているものか黙って考えている者に分類される。谷で会った5人に限って言えば、3人が怒って声を張り上げていて、黒の部族の男ともう一人の男が黙って考え込んでいた。


 その、黙っていた黒の部族の者ではない方の男が何かを老人に向けて言う。老人が少し考えてからこちらを向いた。


「ここにいるヨヨ・ミがもしかしたら関係あるかもしれない話を知っているそうだ」

「なら教えて欲しい、勿論タダとは言わない」


 セイネリア達はエーリジャに言われて酒と干し肉を持ってきていた。ザウラ内で商人のふりをするために運んでいた商品でもあるが、情報との交換品として使えるからという事でここまで運んできた。その荷物持ちも兼ねてネイサーを連れてきたというのもある。


「……いや、教える条件はモノではだめだということだ。聞いたところお前はとてつもなく強い戦士だということだが、このヨヨ・ミはそれが納得いかないらしい」


 セイネリアは笑う。こういう展開は都合がいい。


「つまり、強さを証明してみせろと?」

「そうだ、自分を負かす事が出来たら教えてやる、と言っている」


 老人が言えば、ヨヨ・ミと言われた男が立ち上がってこちらを睨んでくる。挑発するように胸を二度叩き、勇ましそうな口調で何かを言っている。他の蛮族達もそのヨヨ・ミを煽るように何かを叫ぶが、黒の部族の者だけは黙ってヨヨ・ミに嘲笑の視線を投げているだけだった。

 セイネリアも笑って立ち上がった。


「いいだろう、だがこれはどうするんだ? ここじゃ戦ってはいけないのだろう?」


 言ってセイネリは剣を持ち上げると、村に入る前に剣に結んだ紐を指さす。それには笑って老人が返した。


「安心しろ、正当な勝負なら誓いを破った事にはならんよ」

「ならいい、俺はこれを使っていんだな」

「あぁ、ヨヨ・ミはあの剣と盾で戦うそうだ、構わないな?」

「勿論構わん」


 向うの得物は大き目の木製の盾と幅が広く湾曲した剣、一方こちらは両手剣。全身甲冑姿ならこちらが有利だが生憎セイネリアの装備はそこまでではない。とはいえ常識的な範囲の武器であれば有利不利などどうでもよく、どちらかというと思ったよりも向うの武器が普通でつまらないという感想の方がセイネリアにはあった。


――まぁこの展開自体は丁度いいさ、どうせ一度脅しておきたかったからな。


 蛮族にとっては強い事が正義である。こちらの名を知る者がいたおかげでここまで順調にきたが、一度は実際に力を見せつけておく必要はあるだろうとは思っていた。こういう単純で血の気の多い連中は、話だけで納得させられるものではない。


「ならば、私が見届け役となろう」


 言って老人が立ち上がると、他の者も皆立ち上がった。

 戦闘に湧く連中を見ていれば、エーリジャが近づいてきて小声で言ってくる。


「……これも君の想定内、なのかな?」


 セイネリアは彼を見て笑ってやる。


「そうだな、少し上手く行きすぎだが……どちらにしろ、一度は力で脅しておかないとならないだろ?」

「すごい自信だね」

「まぁ、俺が負けて死んだら後は頼む」


 そうすれば彼は一瞬表情から笑みを消して、それから改めて笑って言い返した。


「負けるなんて思ってもいないくせに」

「そうでもない」


 蛮族連中が皆外へと出て行く中、セイネリアもそれについていく。

 だが赤毛の狩人はすぐにはついて来ないでその場に立っていた。


という訳で次回は戦闘シーンまでいく……かな。

乱戦よりも一対一の勝負の方が書きたいなーって事で出会いがしらの戦いはやめてこういう流れにしました。


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