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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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57・ザウラからの手紙2

「セイネリア殿?」


 ザラッツが不安そうに聞いてくる。セイネリアは眉間を押さえて考えた。


「ふん……はは、成程、次々と先手を打ってくれるな」


 面白い、向こうは相当に見切りが早いとセイネリアは思う。元から利用するだけ利用したらスザーナの娘との婚約話は破棄するつもりではあったのだろうが、スザーナが動かないと決めた段階であっさり切り捨てて次の手に切り替えたらしい。

 大方、スザーナ卿がディエナに丸め込まれたとみて、馬鹿な弟では彼女に操られるだろうとでも思ったか。そしてそれだけ頭の働く娘なら、いっそ自分の傍に置いて利用しようと思ったのかもしれない。

 どちらにしろディエナがスローデンの妻になれば、弟を介して間接的にではなく、直接スローデン自身がグローディ領を治められるように持っていける。スザーナ卿を丸め込んだ娘だと分かっていて妻にする気があるなら、さぞ自分に自信があるのだろう。


――さて、どう動くか。


 セイネリアは考える。現状こちらはまだ向こうの情報が少ない。スザーナの街でもキエナシェール周りでも情報を集めてはいるが、スローデンに対しては今のところ有能だという表向きの顔の情報しか入ってきていなかった。ザウラ領内の事についても、割合派手な改革や法整備等……ともかく、向こうがわざと公開しているような情報しか手に入れられていなかった。

 となればスザーナ同様、とにかく一度はクバンに行ってみるしかないだろう。とはいえ流石に同じ手は使えないと考えるところではある。


「それでだ、急な話であるし、会ってもいない人間との婚約などに返事は出来ないだろうと言う事で……ディエナには一度、ザウラに暫く滞在してもらい、この地と自分を知ってもらいたい――そうだ」


 グローディ卿のその言葉に、セイネリアは一呼吸置いてから返す。


「ザウラへ招待してもらえる事自体は歓迎すべきことではある、が」


 あまりにも都合が良すぎてこちらの意図を読まれているようではある。とはいえそれは向うがセイネリアと同じように考えられるくらいの頭があるとも取れる。


「罠ではないでしょうか?」


 そう聞いてきたのはザラッツで、当然セイネリアもそれは考えた、だが。


「罠といえば罠だが、ロスハンの時のようにおびき寄せて始末するという類の直接的な罠ではないだろ。ディエナが向こうにいる間はこちらはヘタな事が出来ないという程度の狙いはあるだろうが、招待の目的自体は向こうもこちらを見てみたいだけだろうな」


 今までの頭の切り替えの早さからして、スローデンがセイネリアの名を知っている可能性は高い。そしてディエナの事もなかなかの女傑らしいと考えている、となれば、まずは敵をちゃんと見定めておきたい、というのは向こうもこちらも同じだろう。


「婚約を決める前に客として招待する、というのならこちらとしては何か特別な理由でもない限り断れはしない。例え、それが人質を差し出すと同じことになっても、な」

「人質、ですか……」

「あぁ、とは言っても実際ザウラ側でディエナに危害を加える事はまずないとみていい。最悪でも無理やり拘束して結婚させられるくらいだろう」


 それにはさすがにグローディ卿もザラッツも即何かは返せない。殺される事はなくても女性としては酷い目に会う可能性はあると言う事だからだ。


「ここで断るなら、断る理由としてロスハンの死を公表してザウラに不信感を抱いていると言うくらいはしないとならない。だが証拠が揃っていない今はヘタに言えば逆にこちらの方が不利に追い込まれる可能性がある。ならここは向こうの招待に応じるしかないだろう」

「それは……そう、ですが」


 ザラッツの声は重い。グローディ卿も折角大役を果たしてやる気になっている孫娘にまた危険な役を押し付けるのは悩むところだろう。


「ともかく、決めるのは本人だ。本人がいないところで勝手に決める話じゃない。まずはディエナを呼んで事情を全部説明してから本人に決めてもらう。向こうの思惑はおいておいてもこちらもスローデンに関する情報が欲しい、そう考えればこれはチャンスだ。だが、ディエナ自身が行きたくないというなら別の案を考える、時間稼ぎ程度ならいくらでもやりようはあるしな――そういう事でいいだろ」


 恐らくディエナはザウラ行きを了承するだろう、とそれが分かっているからセイネリアはそこでこの三人だけの会議を終わらせた。


 そこから改めてディエナを呼んで事情を説明し――そして予想通り彼女はザウラ行きを了承した。


これでもがんばって会議だけの話は出来るだけ早く終わらせようとしてます(==;

ってことで次回はディエナ側とのザウラ行き事前話。

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