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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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54・自信

 会談翌日の静かな午前中の時間、こじんまりとした、けれど綺麗に整えられている庭を見ながらお茶を飲むディエナにセイネリアは付き合っていた。

 まぁ最初は護衛らしく後ろに立っていたのだが、ディエナから座ってくださいと言われて同じく今日の護衛役のエルと共に座ったという経緯がある。


「貴方なら座っていてもどんな襲撃が来ようと大丈夫だと聞きました」

「買い被りだな、どんなとまでは言わない」

「……あぁお前が謙遜なんてらしくねーって思ったら、そうかよ」


 ただの護衛のくせに偉そうに座っているセイネリアとため息をついているエルをみて、ディエナがくすくすと笑う。レッキオはここを出ていく時の細かい手続きやらをしているから今はいないが、すべてやり終えて結果を出せたディエナは今日一日はのんびりする事になっていた。……さすがに食事くらいはスザーナ卿と共にしなくてはならないが。


「これだけ時間があったら、あんたも街に出たかったんじゃないか?」


 機嫌が良さそうに微笑んでいるディエナに聞けば、彼女はちょっとだけ残念そうに眉を寄せたものの、またすぐに笑った。


「そうですね……正直を言えば私も行きたいですけど、そこは立場上仕方ないです。何より私まで行ったらとんでもない大所帯になりますもの、それでは目立って仕方ないでしょう」

「まぁそらぁ……ぞろぞろ歩いて目立つのは確実だろうなぁ」


 エルがその様子を想像したのか引きつった笑みを浮かべる。それにもディエナはクスクス楽しそうに笑った。


「街を歩けないのは残念ですけれど……でもいいのです、今回は私、とても気分的に満たされていますから。ここでの仕事をやり切ったと胸を張って帰れます」

「あぁ、あんたはよくやった」


 セイネリアが呟くように返せば、横でエルが、えらそーによ、と呟き返してくる。そしてそれにまたディエナが笑う。


「ありがとうございます。でもほとんど貴方の言った通りにしただけです」

「それでも、動揺せずに最後まで優位なペースで進められたのはあんたの力だ」


 正直、セイネリアとしては最後の交渉では何かあれば多少のフォローをするつもりがあった。けれどそれが必要なかったくらい、ディエナは上手くやった。


「そう言って頂けると自信がつきます」

「自信を持っていいぞ、それだけの事をあんたはやった」

「本当にありがとうございます。今回の事で……私、弟や妹、母様を守れる自信がつきました」


 さすがに最後の言葉は笑みというより決意の顔で、けれどセイネリアがわずかに笑えばまた彼女も笑う。父が死んで母が沈み込んで……兄弟の一番上として彼女は家族を守らなくてはというプレッシャーと常に戦っていたのだろう。


「それに、たくさん学びました。……スザーナ卿ですが、今朝の朝食の席ではとても機嫌がよいご様子で、今までとはうって変わって話し方も話す内容も好意的だったのです」

「だろうな、実際スザーナ卿にとっては悩みがいくつか消えた訳だろうし」


 セイネリアも食後から護衛についたから今朝のスザーナ卿を少し見ている。ディエナに対して終始笑顔だったのもそうだが、こうして茶の席の用意でも相当に良い茶と菓子を出しているところからして、あのケチジジイがどれだけ機嫌がいいのかわかる。


「交渉というのは、相手も自分も笑って終えられるのが一番の成功なのですね」

「そうだ、少なくとも互いにそう思えるように話を持っていくのがいい。余分な敵を作らなくて済むし、向こうが喜んで行うことなら信用出来る」

「はい、だから向こうの立場に立って話すようにすると良いのですね」

「あぁ、すくなくとも今後ともよい関係を築いていきたい相手とはな」


 エルが隣で、おーおー偉そうに、とまた小声で茶化しているが、セイネリアはそれを無視して茶を飲んだ。茶はいつも安いハーブ茶程度のセイネリアでも、これは高い葉だろうと分かるくらいの深い香りが鼻を抜ける。


「ともかくこれで、おじい様に胸を張って報告できます」

「そうだな、グローディ卿は喜ぶだろう。ザラッツもな」


 試しに出してみた名の反応を見てみれば、ディエナは思わず口を閉じて軽く頬を染めた後に自嘲気味に笑った。


――成程。


 カリンから聞いていたが確かに『らしい』といったところか。ザラッツとディエナの年齢差は10以上あるから、強い信頼が淡い恋心になった程度ではあるのだろう。本人も諦めているし、黙っていれば終わるだけの話ではあるが……状況によっては使えるかもしれない、とセイネリアは思う。


「……ところで今回、結局パーティの中じゃ俺だけ街へ行ってねぇんだが」


 そこでぽつりと、エルがこちらを睨んだかと思ったら恨めしそうにそう愚痴ってきた。


「すみません」


 ディエナにいきなり謝られて、不貞腐れていたエルが焦る。


「いや、そのっ、お嬢さんが悪い訳じゃなくて、こいつだこいつ、護衛担当決めたこいつのせいだからっ」


 言いながら肘で小突いてきたエルに、セイネリアは彼の顔を見ずに言ってやる。


「すまなかったな、エル。俺がいない場合は代わりにお前に状況を見ておいてもらいたかった」


会話の途中で切って申し訳ないです(==;

次はこの会話の続きと、街にいった連中の話でスザーナ編が終わり。

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