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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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50・会談1

 焦るスザーナ卿を煽ってわざと余裕を持ってゆったりと茶を飲むディエナを見て、セイネリアはほぼ今回の交渉の成功を確信していた。


「さて、さっそくですがこちらの提案なのですが……」


 ディエナが言い出せばスザーナ卿は明らかに彼女の言葉へと全神経を集中する。けれどディエナはそれを分かっていて尚、にこりと笑うと急に思い出したかのように言った。


「あぁそうですわ、その前に私、少々耳に挟んだお話がありますの」


 舌打ちをしそうな勢いでスザーナの眉が寄せられたが、その次の彼女の言葉で彼の表情はまた切り替わる。


「こちらのアンライヤ様の婚約の話なのですけど……」

「ディエナ嬢っ」

「はい?」


 焦って言葉を止めたスザーナに、彼女はとぼけたように首をかしげて見せる。

 スザーナ卿はその彼女を睨んでから、後ろについていた文官たちに言った。


「……お前たちは少し部屋を出ていろ」


 そうだ、これは部下には聞かせる訳にいかない話だろう――予定通りだとセイネリアは内心嗤う。

 言われた者達はそこで大人しく部屋を退出し、それからスザーナ卿は忌々し気にディエナを見て言ってきた。


「どうぞ、続きを」

「はい」


 ディエナはそれにもにこりと満面の笑みを返す。スザーナ卿の顔には焦りが見えた。だからこそ彼女はわざとゆっくりと話す。


「そうですわね……本当に噂なのでもし間違っていたら申し訳ないのですけれど、アンライヤ様がザウラ卿と婚約したという話をこちらの者が街で聞いたと申しておりまして」


 言われてセイネリアは頭を下げてみせる。スザーナ卿はちらとだけこちらを見て舌打ちした。もちろん今回、セイネリアの名をスザーナ卿には伝えていない。提出してある護衛役の名前は全部偽名の筈だ。今回においても、単にディエナは護衛からもう一人同席させていいかと聞いただけで、スザーナ卿からすればセイネリアは単に初日にもついていた護衛の一人――おそらくは今回の護衛任務の責任者――程度の認識だろう。


 もし正直に名乗っていたら、例の盗賊計画の失敗から名を聞いているだろうセイネリアをこの場に呼ぶどころか護衛として館に入れる事も許可などしなかったに違いない。


「それは……ですな……」


 アンライヤの婚約話はおそらくザウラ側からまだ公表するなと言われている、だから返事に困るのは確かだろうが、ここで涼しい顔でシラを切れないあたりがこのジジイの無能なところだろう。

 どうにかやっと、嫌々というように口を開けたスザーナ卿の言葉を、だが即座にディエナが止めた。


「あぁいえ、それが真実かどうかをお聞きしたいのではないのです。ですからそれが本当かどうかを答えていただかなくて構いません。ただ……もし真実でしたら、こんな素晴らしいお話ですもの、なぜ公表されないのだろうと疑問に思っただけです」

「それは、ですが……しかし……」


 当然スザーナ卿の言葉は歯切れが悪くまともに答えられる訳がない。それにディエナは更に言う。


「えぇ勿論、もし本当なら事情がいろいろおありだと思いますので言えない事は重々承知しております。ただ私は少し危惧しているだけです。もし公表しないようにというのがザウラ側の意向なら、それはいつでも『なかったことにする』ためではないのかと」

「……どういう事ですかな」


 スザーナ卿の表情は固い。ぴくぴくと口の端が動いているあたり、相当動揺しているだろう。

 さて、ここからが本番だ――と今度はディエナの方をみれば、彼女は笑みを浮かべたままではあるが今度はわざと平坦な声で言った。


「私は単に、婚約という言葉で釣って、ザウラがスザーナを利用しているのではないかと心配しているだけです」


 スザーナ卿が目を見開く、唇を震わせながらも口を開こうとする。自分でもうっすら危惧していた事を他人から指摘されれば、見ないふりをしようとしていた不安が膨れ上がるのは当然だ。

 顔を青くし、唇を震わせるクソジジイに、けれどディエナは何も言わせない。何かを言おうと口を開く前に畳みかける。


「勿論、これは単に私の想像のお話です。ですからそれに対してスザーナ卿は答えてくださらなくて良いのです。ただ私の心配ごとを聞いてくださいますか?」

「そう……ですな、聞きましょう」


 言ってスザーナ卿は額の汗を拭うと口を閉じた。ディエナはやはり彼に笑いかけた。


会談は次回で終わります。

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