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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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39・情報元

 まったく田舎の領主は緩いものだ――このパハラダの街で唯一夜でもそこそこ人通りのある酒場街を歩きながらセイネリアは思う。

 夕食の歓迎の宴へ呼ばれたのはディエナとレッキオだけで、他は当然別食なのはいいとして、外で食べてきてもいいかと聞けばそれはあっさり許可された。勿論ディエナの許可が別途必要だったのは当然としても、それで宴の間、警備役でない者達は自由時間として外出許可が下りた。


――恐らくあのいかにもセコそうな親父なら、勝手に外で食事をするなら余分な食費が掛からずに済む、とでも思ったのだろうが。


 だから堂々と夜の街に繰り出せたため、セイネリアはこの街での予定を少し早めて人と会う事にしたのだった。


「こっちだ、急な話で驚いたぞ」


 酒場街といってもあまり大きい酒場はないしそこまで店自体の数もないというのもあって、店はそれなりに混んでいた。それでも約束した男の周辺には人がいなくてすぐに分かった。一見、ごく普通の冒険者に見える男はこの辺りを拠点としている情報屋だった。


「悪いな、その分礼に色をつける」


 言いながら向かいの席に座れば、男は足を組んで聞いて来る。


「そんなに急ぎの用だったのか?」

「いや、急ぎというより、急遽時間が作れたから出来れば早く聞きたかっただけだ」

「成程、まぁいいさ。ならとりあえず一杯は奢りでいいんだろうな」

「あぁ、飲めるなら飲んでくれ」


 言えば男は今もっていたジョッキを飲み干して、店の者を呼び付けるとお代わりを注文をする。個人の情報屋の割には珍しく仕事の席で飲み食いをするタイプらしく、男の前にはつまみの皿も置いてあった。人間、酒が入ると口が軽くなりやすいから、セイネリアとしては相手が飲みだすのは割合歓迎するところだ。情報が役に立って、今後も繋がりを保ちたいような人物なら一杯と言わず全部奢ってやってもいい。


「で、例のザウラの領主との婚約話についてだが」


 頼んだ酒はすぐやってきて、それを一口飲んで息をついたところでセイネリアは本題を振った。


「あぁ、その情報の出所だったな」


 情報元のうち一つはこの男からという事だったのであらかじめ首都にいる男の仲間に問い合わせてはあったのだが、実際セイネリア自身がスザーナに行くことになったため会って直接聞く事にしたという訳だ。


「まずここの領主様は……まぁケチで有名なんだが、そのケチ親父がザウラの使者が来た翌日にだ、屋敷にドレス職人やら宝石屋やら呼び付けて娘にいろいろ買い与えた。それだけでもこの界隈じゃ怪しいなって言ってたんだが、当のドレス職人が聞いたんだとさ、嫁入りの準備だと」

「それだけでザウラの領主が相手、とは限らないだろ」

「いやそれにな、館の女中の話じゃ領主様はそれから上機嫌で、逆に当の娘はしょんぼりしてるって訳よ。で、それとなく娘の方に聞いてみたら……『今はまだ言ってはいけないのです』だとさ」


 さて――セイネリアはどうしたものかと考える。

 ここの領主の娘のアンライヤは14で、ザウラ側で釣り合う男子といえば少し歳は離れるが現領主スローデンとその弟の馬鹿レシカくらいだろう。馬鹿の方はグローディ側のディエナと婚約しているからあり得ないとすれば……確かに相手は領主であるスローデンとなる。一応ザウラ家縁者との婚約もありえるが、正式発表がされていない事と、スザーナ領主が上機嫌という事からすれば相手はスローデンと推測してほぼ間違いないとは思う……が。


「確かに状況からすればザウラ領主との婚約、と思っていいが……確定情報とは言い切れないな」

「これだけ条件が揃ってりゃ確定でいいと思うが」

「まぁな。だが公にされていないなら、いつでも反故に出来る口約束ともいえるだろ」


 それにはただの冒険者に見えた男もさすがに察したらしく、目を細めてため息をつく。


「それはあるな、確かに。いや……公にできない段階で最初から『なし』にする気の話とも考えられる。……すまなかった、確かにそれじゃ確定情報とはいえない」


 誤魔化さず認めて謝るとは、見た目だけでなく情報屋としてはかなりマトモな人間だとセイネリアは判断する。ならここは繋がりを作っておくべきだろう。


「謝る程ではないさ、つまり、ここの領主の娘はザウラ領主に嫁ぐ――とここの領主自身は思っている、とその情報は情報で役立つからな」

「成程……聞いた通りあんたは頭がいい。だがそう言ってもらえるとこっちも助かる。不確定情報を流したと広められたら信用ガタ落ちだからな」

「安心してくれ、そういう事はしない。ただ、別にその代わりという訳じゃないが、ちょっとした仕事を頼まれてくれるか?」

「いいぞ、と即答したいとこだが、概要だけでも聞いてからの返答でいいか?」


 なかなか用心深い男だ、そこも悪くない――考えながら、セイネリアは彼に言う。


「何、別に危険な仕事じゃない。ある冒険者を呼び出すのに間に入ってほしいだけだ」


 スザーナに雇われて盗賊をやっていた冒険者――ガーネッドという女を探して連絡をつけること。支援石は取り上げられたフリをしなくてはならない筈だから事務局を通して伝言で直接呼び出す訳にはいかない。だからこの周辺に詳しい人間に間に入ってもらった方がいい、とセイネリアは考えた。


スザーナ編は地味な展開が続きます、すみません(==;

次回はスオート君の話。


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