33・グローディ家の事情2
「ねぇザラッツ、これからお茶だからお前も一緒にいかない?」
すると真面目な騎士は一度大きく目を見開いた後、困ったように眉を寄せた。
「いえ、私は仕事がありますので」
「ちょっとくらいいいよねっ」
「いえ……その、ご婦人方の中に私が参加する訳にはいきません」
「それ言ったら僕は男だけどっ」
スオートは引き下がらない。むきになって食い下がっている。
「それは年齢的な問題です。大人の男がご婦人の部屋に気楽に行くものではありませんし……特に私のような武骨者はお茶などに招かれても空気を悪くするだけですので……」
「いいよっ、母様もディエナ姉様も喜ぶからっ」
「いえ、申し訳ございません」
そうきっぱり言い切ると、ザラッツは頭を下げてから歩いて行ってしまった。それに思いきり口を尖らせているスオートを見たところ、どうやらこの少年はどうしてもあの騎士をお茶に連れて行きたかったらしいと思う。
「ザラッツ様はお茶の席は苦手なようですね」
そう言ってみると、少年はカリンを見て不満そうに言う。
「んー……折角ディエナ姉様を喜ばせようって思ったのにー」
「うん、兄様が折角誘ったのにー」
ララネナも兄を真似するように唇を尖らせて言う。その様をほほえましく見ながらも、その言葉の意味を考えて……もしかして、という思いをカリン持つ。そしてそれは、どうやら間違いではなさそうだった。
「あのねっ、ザラッツもお茶に誘ったんだけど忙しいからだめだって」
「ザラッツね、だめだってー」
エイレーンの部屋に来てすぐ姉に向かってスオートが言えば、その語尾をやはり真似して言いながらララネナがディエナに飛びつく。それに苦笑しながらディエナは妹を抱き上げて椅子に座らせた。
「そうでしょうね、あの方はこういう席は苦手だと言っていましたから」
「男だとご婦人の部屋はだめなんだって」
「それも当然よ、貴方ももう少し大きくなったら無暗にこの部屋には入ってはだめよ」
今度は苦笑して小さな少年を諭したのは母親のエイレーンで、少年は不満そうに口を尖らせる。
「えー、そうなの?」
「そうなのっ」
いちいち兄の言う事を真似ようとするララネナには更にクスクス笑って、小さな末娘の髪を直してやりながらディエナが優しく呟いた。
「そうよ、貴女も大きくなったら今みたいにお兄様についてまわってはいけないのよ」
「えー、なんで?」
「お兄様はもう少しするとお勉強で忙しくなるの」
それでララネナは不満そうに唇を尖らせると、椅子から浮いた足をばたばたと前後に振る。スオートもそれを見て顔を不満そうに顰めた後、さすがに声で嫌だとは言わないが妹のように足を前後に振り出した。
「行儀が悪いわ」
そこでひざをぺシリと姉に叩かれて、スオートは足を止める。少年はまだ恨めしそうな顔をして姉を見上げた。
「姉さまごめんね」
「何が?」
「ザラッツを連れてこれなかった」
それにくすりとディエナは笑う。
「何故謝るの、おかしな子」
「でも、会いたいでしょ?」
それには一度彼女の笑みが曇って……だからカリンはそこで『もしかして』程度に思っていた予想が当たっていたことを理解する。
「いいのよ、彼はお爺様が御病気で伏せてらしてる分忙しいのだから」
寂しそうな笑みは彼女の心を映していて――だからこそザラッツもあそこまで強硬に断ったのだろうとカリンは思った。
次回はセイネリアが帰ってきてからの報告と作戦会議?かな。




