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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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25・戦い後1

 エルとエーリジャは砦にある一番大きな櫓の上にいて、下の様子を見ていた。


「こっちはこれで終わりかね」

「そうだね、後は捕まえた連中から支援石を取り上げて、一旦向こうに運べば終わりなんじゃないかな」


 戦闘は既に終わっていたから、周囲にいる砦兵達も表情は皆柔らかい。エルは背伸びをして首を左右に動かす。今回は戦闘に参加した訳じゃないから疲れてはいないが、緊張をしていたのは確かだ。エーリジャはさっきまで目を凝らして森の方を見てみていたが、今は彼も座り込んでほっとした顔をしているから森方面に敵は残っていないと思っていいのだろう。


「俺はセイネリアのとこに行くがあんたはどうする?」


 実はここにはエデンスもさっきまでいたのだが、彼は既に下におりてどこかへ行ってしまっていた。いなくなってから気付いたから最初は逃げたのかと嫌な想像をしてしまったが、エーリジャが下で手を振っている彼を指さしてくれた。多分問題はないだろう。


「セイネリアか……う~ん、俺は向こうへ行くのはやめとくかな」


 年上なこともあってか結構あのセイネリアの事を心配したりもする彼だから、少しエルは意外に思う……だが。


「行ったらちょっと彼の事を嫌いになりそうだからね」


 それを聞いてエルも察した。


「だな。あいつが容赦しねぇっていってたから……まぁあんたは見ない方がいいような状況にはなってンと思うぜ」


 この狩人はセイネリアとはほぼ真逆の人間と言ってもいい。前の傭兵の仕事の時、ついては来ていたが足止めの怪我程度はまだしも、彼が直接人を殺すつもりで射る姿を見た事はなかった。セイネリアも分かっているから人を殺すのが前提のところへ彼をおいたりはしない。

 しかも今回の敵は蛮族ではなく盗賊をしているとはいえ冒険者だ、彼としては殺したくないのは勿論、大勢の死体が転がる現場も見たくはないだろう。


「ま、俺はどっちにしろ治癒の手伝いもしなきゃなんねーから行くわ。そのついでにあいつの顔も見てくる。……いつも通り平然としてンだろーがよ」

「だね。まったく規格外だからね。俺はもう少し見張りをしてるよ」


 それで手を振って赤毛の狩人とは別れたが、セイネリアのやり方を考えれば彼は確かにこのままずっと一緒に仕事は無理なのだろうとエルは思う。


――味方としちゃ、頼りになンだけどな。


 一緒にこのまま居てほしいとは思っても、セイネリアがこれから地位を上げていけばいくほどエーリジャの見たくない仕事ばかりが増える気がする。不幸な何かが起こる前に、彼は抜けた方がいいのだろう。


 考えながらセイネリアがいる方面へと歩いていたエルは、盗賊達がいる小屋近くの広場へ近づく程死臭が強くなるのに気づいてごくりと喉を鳴らす。そうして実際の広場の現状を見て――その場で思わず死者に向けて祈りを捧げた。

 まったくガラでもない、などと思いながらも神官としての役目を果たさなくてはならないだろうと思う程……そこには死体ばかりが転がっていた。





 レッキオ・デル・ペデルは、この状況に感心していいのか、恐れるべきなのかと考えながらもどこか呆然としていた。

 セイネリアという男は本当にオカシイ、と結論としてはそれしか出ない。


 レッキオは上司のとしてのザラッツを尊敬していた。グローディ卿からの信任が厚く、軍事や国内問題においてはグローディ卿自身の代理をつとめる事さえあるのに、彼は下に対して高圧的な態度をとる事はない。不正者に対しては厳しくても、真面目な者はちゃんと評価してくれる。自身も常に鍛錬を怠らず、騎士としての能力も高く頭もいい……そんなザラッツをレッキオは騎士の鏡のような人物だと思っていた。

 そのザラッツが今回の仕事をするに当たって、このセイネリアという男に関して言っていたのだ。


『個人的には嫌いな人物だが、彼の言う事は聞いていい。恐ろしい程強くて頭の回る人物で、信用も出来る』


 頭がいいというのも強いというのも盗賊達を捕まえる段階で分かってはいたが、『恐ろしい程』というのは今初めて分かった。

 この光景を見たら――実力主義の冒険者であれば、彼の敵になろうなんて思わない。彼の強さもそうだが、この状況を作り上げる力がすごいのだ、それは彼でないと出来ない。


レッキオ視点のシーンがここから数話続きます。

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