24・襲撃者達の運命2
自信満々で自分がいるからグローディ領に問題が起こらないと言い切った男を思い出せば、ガーネッドの胸騒ぎはますます強くなる。最悪のパターンを考えだせば、いくらでも悪い事が思いつく。
たとえば、奇襲が成功したなら仲間はもっと静かなウチにこちらを助けにくる筈ではないか、とか。
派手な戦闘音は聞こえるのにそれらはすべて遠すぎた。味方がどういう作戦を立てたのかは知らないが、普通はこっそり忍び込んでこちらを開放してから騒ぎを起こして逃げるのではないか。
それに戦闘が始まった辺りから、やけに小屋の中へスキマから光が入ってくる。この辺りに大きなランプ台でもあっただろうか? 襲撃を受けたから臨時で明るくしているのか? そんな準備をしていたなら待ち構えていたのでは?
不安は益々大きくなる。助けにきたと安堵の声を上げている仲間達の明るい声とは裏腹に、彼女の不安は益々大きくなっていく。
けれど、だんだんと戦闘音が近づいてきて、それに彼女もどうにか少し安堵する。仲間達は助けに来た連中を応援して盛り上がり、部屋の中は暗くとも中の空気は明るかった。
悲鳴が上がる、ゴッ、とこの小屋に倒れた者がぶつかる音がする。刃と刃がぶつかる金属音、悲鳴、悲鳴、悲鳴……縛られて動かない手で彼女は祈る、この悲鳴がここの砦兵のものであるようにと。
そうしてとうとう、待ちに待った瞬間がやってきた。
小屋の扉がガッ、と大きな音を立てる。それから鍵が外される音がしてゆっくりと開いていく。
急に入ってきた光に彼女はまず目を細めた。
けれど目が慣れてきて、それがただの光を背負った黒いシルエットから人の姿に見えた時、笑おうとしていた彼女の顔は凍った。
そこにいたのはどうみても助けにきた仲間ではなかった。
どこをどうみてもグローディの兵で、しかも彼らは一人ではなく次々と入ってきて彼女は勿論、仲間達を押さえて小屋の外へと連れていこうとする。
味方が来たと思って彼らの姿に暫く呆然としてしまったガーネッドは、すぐに気を取り直して兵達に怒鳴りつけた。
「ちょっと、あたしたちをどこへ連れて行く気っ」
ここに置くのはマズイから移動させにきた……そう思った彼女だったが、返された言葉は彼女の予想したものではなかった。
「何処へも連れていかない」
それがどういう事かわからない彼女は、だがその兵に押し出されるまま小屋の外へ出て、そうして――目の前に広がる光景に絶句した。
あちこちに外用の大型ランプ台と篝火が置かれたそこは夜とは思えないくらい明るく照らされて、いくつもの死体が転がっているのが見えた。しかもそれはまだ増えている最中で、彼女が見ているところでまた一人……いや、一度に二つの死体が追加された。
黒い男が長い槍をもって、それで周囲を一凪ぎする。まるで踊るように華麗に黒いマントが周囲に広がり、見覚えのある禍々しい斧刃が血しぶきを上げる。悲鳴は一瞬、次の瞬間にはまた死体が出来上がっていて、黒い男は更に次の敵に向かう。
逃げる事も出来ずに棒立ちになって倒れる者、逃げて背を向けた途端に頭を割られる者。
それは戦闘ではなく、ただの一方的な殺戮だ。
けれどすぐに……音はなくなる。
立っているのは砦兵とその黒い男、あとは男の仲間らしき者達だけになり、あれだけ騒がしかったのが嘘のような沈黙が訪れる。彼女を押さえつけている砦兵さえその光景にごくりと喉を鳴らし、恐怖を感じている事が分かって、彼女の頭は回りだした。
「ふふっ……あはははは」
そこで唐突にガーネッドは笑い出した。別に気が触れた訳ではない、自分の立場と状況というのを分かって腹が据わった反動のようなものだ。一度声を上げれば益々笑い声は大きくなって……けれど、黒い男が近づいてくるのを見ると、彼女は顔に笑みを浮かべたまま笑い声を止めた。
「お前達は運が良かった」
言いながら男は兜を取る。兜ごしでさえ血がついた顔に表情らしい表情はなく、肉食獣のような金茶の瞳が冷たく光って彼女の怯えた顔を映す。
恐怖に震えそうになる唇で、それでも笑みを消さないまま彼女は答えた。
「あぁ本当に……あたしたちは運が良かった。いいさ、なんでも言う事を聞こうじゃないか」
今回もいい悪役ぶりだ……セイネリア(==。
次回は場面変わってその他のメンツサイドのお話。




