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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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20・森から道へ1

――もしかしたら、怒るかもしれないけどね。


 思いながらも、エーリジャは遠くに見える黒い男を追う。普通の人間と違って狩人並に森に慣れているセイネリアだが、本職の狩人と決定的に違うところがある。それが、森の女神ロックランの信徒ではないという事だ。ロックランの信徒なら、森の中限定で足音や気配を消す術が使える。目で見えなくても木を辿って人や動物の気配を探る事が出来る。

 だから、いくらセイネリアであっても、彼に気づかれないようにその背を追う事が出来る。


 盗賊に追われて森へ逃げ込んだ後、弓で盗賊連中を足止めしながらエーリジャはエデンスに言ったのだ。


『やっぱり俺はセイネリアについて行く事にするよ。報告だけなら貴方一人でいいよね』


 エデンスは特にそれに反論をするでもなく、割合あっさりと、分かった、と言った。

 そして合図と共に二人同時、盗賊に見えなくなる程度戻った場所まで飛ぶと、彼と別れてエーリジャだけがセイネリアが潜んでいる筈の場所へ向かったのだった。


 後はずっと、気付かれないように彼を追って、何もなければエル達が追い付いた時に一緒に出て行けばいい、と思っていたのだが。


――これは少し、不味いかな。


 エーリジャの位置からでは、セイネリアの更に先にいる筈の盗賊連中の動きは流石によく見えなかったし会話など聞き取れる筈もなかったが、辛うじて二人組の冒険者が見えて、セイネリアがそれを助ける為に矢を放ったというのは分かった。

 そこまでは、まだこちらが手を出すまでもないとエーリジャは思った。後少しいけば街道に着くというのは分かっていたし、セイネリアならそこまで逃げ切るのは問題ないだろうと。だからどちらかといえば、街道に出てから彼をフォローするつもりでいたのだが……普通ではない風の流れを感じて、エーリジャは先回りするつもりの足を止めた。


 盗賊側の追いかけてくる者の足がやけに速い。

 セイネリアが足を止めて矢を射る……が、即座に風が鳴る。相手は倒れない。


 そこまで理解すれば、冒険者生活が長いエーリジャなら状況は読める。

 だから普段は背負っている大弓の方を取って、構えてセイネリアを追う敵を狙う。

 いくら風の神マクデータの術でも、この距離でこの矢を止められはしない筈だった。


「今のうちに街道へっ」


 矢が当たればすぐにセイネリアがこちらを向く。彼は片手を上げるとすぐさま街道に向かって走り出した。





 セイネリアは思った。自分はこのところ助けられてばかりだなと。

 いつでも一人でもどうにかするつもりで動いていたが、このところ想定外の助けが来たおかげで助かっているケースが多い。力が足りないのなら死ぬしかない――そう思っていたのに皮肉なものだと自分自身に呆れはする。

 ただ、自分の足りない部分を仲間が補ってくれた……と考えるなら、これはこれで正しいのだろう。所詮個人で出来る事など限界がある。


――成程、俺の考えは矛盾している訳か。


 個人に限界がある事を承知しているのに、個人で全てどうにか出来るくらいのつもりで考える。それは確かに矛盾だ。

 それに少し楽しくなって笑ってしまえば、目前に森の切れ間が見えてセイネリアは今度は別の理由で唇に笑みを浮かべ、右手にある槍を握り直して体の前に持ち上げた。

 すぐに森から抜けて、道の上に出る。

 そこで体を反転させて、敵を待つ。

 後方でエーリジャが森から出てすぐ、道の反対側の森へ向かったのが分かる。

 前方から例の二人組冒険者が出てきたから、こっちへ来いと叫んでおく。

 そこから程なく、盗賊の一人と思われる比較的小柄な影が出てきたから、まずはそいつを槍で刺した。槍を抜けばその人物は悲鳴を上げて転がって、次に森から出てきた仲間がそれを見て剣で斬りかかってくる……が、魔槍を一振りすればその男の足も止まる。さすがに命は惜しいらしい。


次回で盗賊捕獲、かな。

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