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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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12・目的と黒幕

 ずっと現場を『見て』いたクーア神官が、一息ついて壁に背を預けた。


「盗賊達は砦兵を見てさっさと撤退してったぞ」

「そうか」

「……どうやらあんたの想定通りっぽい」


 それには閉じていた目を開いてセイネリアはクーア神官を見る。僅かに口元に笑みを浮かべれば、向こうも苦笑して肩を竦めてみせた。


「砦兵の恰好をした連中が出てきた途端、連中は逃げ出した。見事なまでに全員一斉に引いてった、けが人も無視せずちゃんと連れていってな」

「連中の恰好はどうだった?」

「そうだな、ボロっぽく見えるマントを羽織ってる奴は多かったが、中の装備は割合ちゃんとしてたと思うぞ。あとな、言われりゃ確かに兜被ったりして顔見えない奴は多かった。仮面ぽいのをつけた奴もいたと思う」


 エデンスには『見る』にあたっていくつか注意する点を伝えてあった。装備や、顔を隠しているかどうかもその内の一つだ。

 そこで隣にいたエルが聞いて来る。


「……ってぇと、やっぱり連中、冒険者なのか?」

「多分な。全員とまでは言えないが冒険者が中心となってると思っていいだろ」


 エルはそれで顔を顰めるとため息をついた。


「なんでまた冒険者が盗賊のふりなんか」

「それが依頼内容ならするだろうよ」

「依頼者は?」

「分からないか?」


 そこでまたエルは更に顔を嫌そうに顰めて、会話を続ける気も起きなかったのか馬車の壁に背を預けて頭も付けた。


 冒険者の仕事として、勿論犯罪者でもない人間を殺したり、盗賊なんて犯罪自体を目的とした仕事は事務局で依頼として受け付けはしない。だが違う名目で募集して、その実仕事内容は真っ黒の犯罪なんてのはよくあることではある。抜け道などいくらでもある、特に依頼者側が地位のある人間なら尚更だ。


「……それはまさか、ザウラかスザーナが雇った冒険者が盗賊のふりをしてここを通る者達を襲っている、という事でしょうか?」


 今度はそこで、黙ったエルの代わりにレッキオが聞いて来た。ザラッツの部下として派遣されてきたというのなら、恐らく真面目でマトモな人物だと思って間違いないだろう。


「だろうよ。ただここの領主の跡取りを襲ったのはソレとは違う連中だと思うがな。その後に出てくるようになった盗賊共はただの雇われ冒険者の可能性が高い。なにせ捕まって身バレしたら冒険者の資格をはく奪されるから楽勝じゃない相手はさっさと逃げる、死体からもバレたら困るから回収していく」

「何故冒険者を雇ってまで盗賊なんて……」


 真面目で信用は出来る人物ではあるのだがろうが、やはり善人過ぎて悪い方に頭が回らない人物であるのだろう。青い顔で悩んでいる様子のレッキオに、セイネリアは一応教えておいてやる。


「盗賊共を雇って隊商を襲わせているのは……暗殺を盗賊のせいにするためのカモフラ―ジュもあったんだろうが、単純にキエナシェールからクバンの街の移動ルートを潰す為だと考えられるな」

「……それが目的なら、犯人はスザーナだと?」


 そこへ頭が行った辺りは少なくとも馬鹿ではない、だが。


「確かにそのルートが潰れれば、首都からの隊商がクバンへいくのにグローディ領ではなくスザーナ経由になるから一番得をするのはスザーナだ。だがだからといってスザーナが首謀者とは言い切れない」

「何故です? 我が領からザウラ領に行くのが難しくなればザウラも損をする側ではないのですか?」

「いや、スザーナ経由になるだけだから向うがグローディ側を斬り捨てるつもりならなんの問題もないだろ」

「まさか……」


 やはり青い顔で考え込んだレッキオは、それを否定する材料を探しても思いつかないのだろう。

 ザウラ領の領都クバンの街は、特別栄えているという程有名な街ではないが、ここから北方面へ向う商人達にとっての重要拠点である。なにせクバン以降は小さな村や街ばかりでロクな都がないことと、ザウラの北には騎士団の支部があるから治安的にも安心感がある。大きな隊商はクバンまできてからいくつかに別れてそれぞれ北の各地域を目指すのが通例となっていた。


「現状だとグローディ領経由の方が便利だし、キエナシェールの街は宿が多くて商人達としても使い勝手がいい。だがスザーナからのルートの方がよく使われるようになればその利点も簡単にひっくり返るだろうよ」


 だから現状、スザーナとザウラが手を組んでグローディを潰そうとしているのは間違いないが、どちらがこの計画の黒幕かというと状況的にはザウラの可能性が高いとしか言いようがない。まずは、そこをハッキリ確定させておきたかった。


「レンファン、あんたは何か見えたか?」


 急に声を掛けられて、驚いたようにクーアの女神官は顔を上げた。


「あ……あぁ、わざわざ言う程のモノは見えていないが……。キエナシェールの街を歩く人々を見た時、最初に街に入った時は殆どの者が暗く沈んだ表情をする未来が見えた。だが、お前が仕事を受けてから領主の館を出た後は……少なくとも暗い未来を示すようなモノが見えた人間は殆どいなくなった」


 その言葉をそのまま取れば――セイネリアがこの件に関わる事が決まった時点で、キエナシェールの街の人々の運命が変わった、ととれる。セイネリアの主義としてそれをもって楽観する気はないが、すくなくとも『いい予想』は信じておくかと思う。


「前の連中が動き出したぞ」

「ならこちらも動くか」


 エデンスの言葉にセイネリアがそう返して、間もなく馬車は動き出した。


まずは調査の為なので、最初の盗賊接触はここまで。

次回は今回の調査報告会議かな。

ともかくまだ全然序盤なのでさっさと話を進めたいところ。

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