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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
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10・調査として2

「ヴィッチェ、そろそろ交代しようか。君は横を見ていてくれるかな」


 馬車の車の音と振動で道が変わった事を感じて、エーリジャは彼女にそう声を掛ける。


「分かったわ」


 ヴィッチェは素直に場所を移動する。見張りのメインは目のいいエーリジャがやる事になっているため彼らが今乗っているのは先頭の馬車で、エーリジャは前面が見える穴の方に向かった。後ろの馬車にはデルガとラッサと砦兵が二人、最後尾の馬車にはネイサ―と、エーリジャ程ではないが見張り慣れで目のいい者を含んだ砦兵の残り三人が乗っている。

 セイネリア達はこちらよりも馬車が少なく、小規模の隊商として自分達の後の方からくる筈だった。当然襲われる可能性はこちらの方が高いだろうというのは予想されていて、状況的にマズそうならセイネリアが転送ですぐやってくる事にはなっていた。


――まぁ、いくら敵が多くても、この間街で襲ってきた連中程の人数はいないだろうしね。


 あの数を相手に一人でもどうにかしていたあの男なら、想定以上の大盗賊団が出て来ても撃退は出来るだろうという妙な安心感がある。そんな事を自然と思ってしまうあたり、彼はやはり化け物だ。


「木の上に人がいる。偵察かな、皆に注意を呼び掛けておいて」


 けれどそこで目に入った影に、体勢を変える事なくエーリジャはヴィッチェに告げると弓を下に向けたまま矢を番えた。合図は呼び出し石でする事になっているから、手筈通りに彼女は他の面々に知らせてくれる筈だった。


「連絡したわ」

「ありがとう」


 やりとりをしながらも彼女の方から剣を抜く音がする。エーリジャも御者台の後ろに移動すると、幌の布を挟んで向う側にいる御者の男に言った。


「前方に盗賊らしきものがいるので、もし連中が出て来て道を塞がれたらすぐ馬車を止めてこちらの中に入ってください」

「は、はいっ」


 緊張した声が返ってきて、エーリジャも一度大きく深呼吸する。

 それから間もなく、その御者の声が上がって馬車が揺れる。規則正しく聞こえてきた馬の足音が乱れて、嘶きが聞こえ、馬車が止まろうとしているのが分かれば『来た』のだと分かる。

 馬車が止まって、悲鳴が上がって、すぐ傍の布がめくりあがったと思えば御者をしていた男が中に急いで転がり込んできた。即座にエーリジャもちらと布をめくって前を覗き見ると、一度上半身を出して道の先からこちらに向かってきた人影の一人に矢を放ち、またすぐに身を隠した。


 悲鳴が聞こえる、狙ったのは足だから少なくともこちらに来る人数は減らせた筈だ。


 更に周囲から一斉に声が上がって、剣と剣がぶつかる戦闘音が聞こえてきた。前に出た者がまず隊商を足止めして、周囲に潜んでいた仲間が横から一斉に襲ってくる。盗賊お約束の手だが、ただの獲物と思っていたものが想定以上の戦力で反撃した場合にどうするか。


「おっうらぁっっ」


 そこでいきなり後ろの幌がめくられたらしく、いかにも下品そうな男の声が馬車の中に響いた。けれどそれはすぐ悲鳴となって馬車から消える。後ろの入り口前で待機していたヴィッチェが刺して落としたのだと思われた。

 この馬車は外見的にはすっぽり幌で覆われているものの、前後の出入り口以外周囲は板で覆われているため、盗賊が入ってくるのは基本その出入り口だ。登られたら幌を破って上から落ちてくる可能性もあるが、それなら音で分かるしそれに――エーリジャは再び布あげて前を覗き、敵の姿を確認する。そうしてまた一瞬だけ半身を出すと今度は即座に2発矢を放ってまた隠れた。二人分の悲鳴が上がったから矢はちゃんと当たっただろう。


――まぁもし上から来ても顔を出した時点で俺が落とすだけだからね。


 エーリジャの仕事はこの馬車の中の者を守る事。あとは見える範囲で外の敵を減らせられればそれでいい。この馬車には隊商の人々で戦闘要員でない人間が多く乗っている。止まればすぐに後ろに乗っているデルガとラッサがきてこの馬車の横を守ってくれる筈だった。

このシーンは後一話掛かります。んー、思ったより長くなった……。

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