表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の主  作者: 沙々音 凛
第十一章:冒険者の章八
423/1199

6・道のり

 グローディ領の領都キエナシェールを出れば、暫くは果樹園が続いて山へと向かう事になる。とりあえず今日中に領境近くにあるシャサバルの砦へ行って、明日からそこを拠点として盗賊退治をすることになった、のだが。


「いや確かに大して疲れちゃいねーけどよ、何もその日に出てこなくても……」


 砦へ向かう道中、エルが思い切ってそういってくれば、それにヴィッチェが追従する。


「そうよ、いくらなんでも即出発はないでしょ」

「即じゃない、結局昼食後になったんだ、休憩は十分取ったろ」

「でも折角お屋敷で部屋を用意してくれたって……」

「時間の方が大事だ、折角疲れずにここまでこれたんだからその利点は生かすべきだろ?」


 暗に『転送で楽して来たんだからさっさと働け』と言われたのはヴィッチェも分かったらしく、彼女もそれで引き下がった。横でレンファンが肩を叩いて宥めたというのもあるが、煩く騒ぎ立てられるのはセイネリアとしては面倒だったのでそこはクーアの女神官がいて助かったといえた。

 なにせ、ヴィッチェの宥め役としては慣れているカリンが今はいない。今回、彼女だけはグローディ卿の屋敷に残してきたからだ。


 この状況から最悪のパターンを考えていった場合、もしザウラがグローディ領を表面上穏便に取り込むつもりなら、ディナエ嬢と婚約したザウラの馬鹿息子が最終的にグローディ領を継ぐように持っていけばいい。次の領主であるロスハンを殺したのはその為だろうし、そこから考えれば……グローディ家の血筋で継承権がディナエ以上の者達が危険だという事になる。ディナエには弟がいて、継承順としては父親のロスハンがいない今はその子供が次のグローディ卿となる。ならば一番危険なのはその子供の筈で、まだすぐには手を出してこないとは思っても念のためカリンを護衛に置いてきたという訳だ。


「てか、転送で一気にとはいかなくても、飛び飛びでいけばいけるんじゃないの?」


 今度はエデンスに文句の矛先を変えたヴィッチェに、クーア神官は肩を竦めて答えた。


「俺の限界は一度に自分を含めて3人だ。距離に至っては歩いて10分ちょい程度の場所までが精一杯だからな、それなりの距離の移動は普通に歩いていった方がいいぞ」

「……その程度なの?」


 転送が使えるクーア神官と組んだことがある冒険者というのは限られるからその能力が知られていないのは当たり前ではある。エデンスもそういう反応は慣れているのか怒った様子はなかった。


「クーア神官個人での転送能力なんてそんなところだ。ただ複数人で力を重ねれば量も距離も大きく増やせる。神殿では5,6人使って街間転送をさせてるんだよ、勿論力を重ねるには訓練も必要で単に人数がいればいい訳じゃない、魔法使いの転送とは違う」


 ただ言いながらちらとこちらを睨んできたところからして、魔法使いの転送に関しては相当に彼にとっては苛立つモノがあったのだろう。


「まったく、一度楽を覚えたくらいでそこまで堕落するんじゃ冒険者失格だな」


 彼の視線を無視して笑ってヴィッチェいってやれば、彼女の顔が赤くなって怒鳴ってくる。


「堕落って何よ、あんたが早い方がいいって話をしたから、もっと手っ取り早くいけないかと思っただけじゃない! っていうか本当にあんたって勝手に一人で決めてこっちに全然事前説明なしじゃない、だからあんたは……」


 そこでレンファンが彼女の肩を叩いて言葉を止める。

 ただ彼女はそこからヴィッチェの前に出て、セイネリアを睨んで言ってきた。


「セイネリア、あまりヴィッチェを揶揄うな。煩いのは嫌なんだろ?」


 それにはセイネリアも軽く笑って返事を返した。


「確かにそうだな」


 言えば、明らかにほっとした顔をしたのはデルガ、ラッサ、ネイサーのヴィッチェのパーティ仲間達で、どうやらアジェリアンとフォロがいない状態では普段からヴィッチェを宥めるのに苦労しているようだと思う。もしかしたら仕事が減っている原因にソレもあるのかもしれない。


「ヴィッチェ、余分に騒ぐと余分に体力を使うからやめた方がいいっていっただろ」


 そこでヴィッチェに声を掛けたのはネイサーで、前の仕事から無口で目立たない印象だったから少しだけセイネリアは意外に思った。


「分かってるわよ」


 口を尖らせて黙ったヴィッチェにネイサーは軽く笑みを浮かべ、周囲を見回してからヴィッチェの後ろ斜め、少し道の外側寄りの場所に下がる。ヴィッチェの前にはレンファンがいるから、その位置取りはきっとヴィッチェを守るためだろう。そういえばこの男は前の時もやはりフォロとヴィッチェを守れる位置取りをいつもしていた。リパ神官のフォロは戦闘能力がないから基本は女神官の方についてはいたが、ヴィッチェが大人しく後方にいる時は二人を守ろうとしていたと思う。


――こいつはヴィンサンロア信徒だったか。なら、いろいろ訳ありだろう。


 ヴィンサンロアは罪人の神である。信徒は主に現在罪を犯している者か、かつて罪を犯した者となる。ネイサーはどう見ても後者だろう。


アジェリアンのパーティーメンバーは前回は女性陣くらいしかまともに書けなかったので、今回はもうちょっとちゃんと書いてやろうと思ってます。

次回は砦についてからの話。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ