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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十章:冒険の前の章
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19・承認者

 戦う者達を見下ろせる建物の屋根の上、杖をもった二つの影がじっと下を見つめていた。


「あの男は何故すぐに魔槍を呼ばなかったんでしょうか」


 一人の魔法使いが呟けば、もう一人の魔法使い――ケサランはその場に座り込んだ。


「さぁな……あぁいや、大方あいつの事だから気に入らなかったんだろうよ」

「気に入らなかった?」

「あぁ、槍に頼ってこの場を切り抜けるのが嫌だったんじゃないか?」

「自分の命を危険に晒す事になるのに?」

「だからこそだろうな」


 ケサランの言葉に相手は困惑して考え込む。まぁ普通はそんなの理解できないだろうとはケサラン自身思うところだ、分からなくて当然だろう。


「あの男はあくまで自分の力で勝ち取る事に意味を見出してる。合理的に物事を考える男だが、そこだけは合理的じゃない」

「よくわかりませんね」

「だろうな、だがだからこそこちらとしても信用出来るともいえる」

「そうなんですか」


――まったく、一緒に行動してきてもまだ全然あの男を理解できていないか。


 ケサランは呆れるがそれも仕方ない事ではあるのだろう。なにせこの魔法使いは自分と違って中身の思考が魔法使いらし過ぎる。


「あぁ、『ずる』をしてまで地位や金を求めないし、自分がぶれないから不安に駆られてあちこちに喋ったりもしない。……それが分かったから、お前も手を引いたんだろ、フロス」


 それでまだ立っている方の魔法使いフロスは苦笑して肩を竦めた。


「えぇ、たしかに。あの男が言わない、と言ったら絶対に言わないだろうというのは納得しました」

「なら急ぐな、という意味も分かったんじゃないのか?」

「そうですね。あの男を無理にこちらに引き入れるのがどれだけ危険かというのは身に染みて分かりました。ですがやはりさっさと彼がこちら側にきてしまえばいいのにとは思っていますよ」


 ケサランはそれに鼻をふんと鳴らしてから、また下を眺める。セイネリアの仲間が来た後の展開は早くて、彼が槍を呼んだのもあって敵はもう敗走に入っていた。ここまでくればもう、彼が危険に晒されているという状況は切り抜けたとみていいだろう。


「彼がこちら側にくるなら彼が納得するカタチじゃないと敵視される。ただでさえこちらは嫌われているんだからな」

「承認者である貴方が嫌われているんですか?」


 半分茶化して言ったフロスの言葉に、ケサランは不機嫌そうに腕を組んだ。

 承認者――なんて御大層な名を持っているケサランだが、魔法使いとしては特に魔力が強いとか、優れた能力持ちという訳ではない。

 ケサランの能力は生物との意思の疎通が出来る事で、生物全般についてその意識を感じ取り、動物や魔物等知性の低い生き物なら意識を同調させてある程度操る事が出来るというものである。特別すごい能力ではないが……ただ珍しい。


 彼が承認者という名を得た理由は、人間に対してその能力を使えばその人間の意思や感情、性格などが感じ取れて、だからその人間が信用出来るかどうかを見極めることが出来る――そのせいだ。


 心を読むのとは違って具体的に相手が何を考えているのかはわからないが、その人物がどういう人間であるのかが分かる。相手の精神面の感覚的なものを読み取るから読み間違う事はまずない。だからその人間にあった対応が出来る訳で――それでまず相手に嫌われることなく交渉が出来る、というのもケサランの重要な能力であった。

 それが魔法ギルド内で重宝されているからある程度の地位を貰って、ギルドが持っている魔法アイテムを渡されて一般魔法使いより歳をとるのを遅らせてもらっている、という訳だ。

 ちなみに魔剣の調査が仕事になっているのも、生前の記憶が欠ける事の多い剣の中身の魔法使いを特定したり、その魔剣が危険でないかを見極めるのにケサランの能力が都合が良いからだ。


「俺個人は多少マシかもだが、あの男は魔法使いを嫌ってる。というか今あいつが知ってる魔法使いの秘密は基本、嫌われるような話しかないだろ」


 ため息まじりにそう返せば、フロスは含みのある声で言ってくる。


「……そして今回また一つ、嫌われるような秘密をあの男は知った訳ですね」

「その通りだ」


 魔女の存在を明かした段階でそのうち教える事にはなるだろうと思っていたから仕方ないが、それでもあの男にとって魔法使いを更に嫌うだけの理由にはなっただろう。とはいえ感情より理性を優先させる男だから今の関係は保てるだろうが……彼がすべてを知ったとして、こちら側に協力してくれるとはケサランにはやはり思えなかった。


ここでこっそりケサランの能力紹介。

次回はエーリジャのお話、その次くらいでこの章は終わりかな。

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