13・気に入らない1
予知だ、運命だ――あたかも自分の未来が決まっているようなその手のモノは基本的に気に入らない。自分の未来は自分で選択し、掴むもので、誰かの書いたシナリオをたどる事ではない筈だった。
魔法使いはセイネリアが魔法使いたちに何か大きな変化をもたらすと予知した。
レンファンはセイネリアが力を手にいれ、だが望みは果たされないという予知をした。
どちらもロクでもない話で、セイネリアにとっては忌々しいだけだ。
だからその時のセイネリアは、少しばかり苛ついていたのだろう。
そのせいで、周囲の気配に少しばかり気付くのが遅れたのは確かだった。いや、もしかしたら、あえてキナ臭い空気のするところへ行きたくて気付かなかったのかもしれない。
どちらにしろ、セイネリアがはっきりと周囲の状況を理解した時は、それはいわゆる『後戻りはできない事態』にはなっていた。前も後ろも塞がれて、周囲には武器を持った男達。数は……分かるだけでも20人はいるだろう。
「今回は随分と数を揃えてきたじゃないか」
けれども別に恐怖はない。これだけの人数を揃えてきたという事は、それだけ自分達を雑魚だと理解している連中だという事だ。ただ人数を揃えられるだけ揃えた分、今までの連中よりはマシな頭があるのは確かだろう。
それでもこれだけの人数を見てもヤバイとは思わないのは――いざとなれば槍を呼べば済むから、と言えなくもない。だがそれを思いついた段階で、微妙にセイネリアは苛立ちを覚えた。
――気に入らないな。
あの槍は確かに便利過ぎる武器だ。切れ味がインチキくさくてどれだけ使っても刃こぼれも錆の心配もない。しかも持ち歩きが面倒な大型武器なのに呼べばくるから持ち歩く必要がないとくる。
セイネリアの主義としては利用できるものは利用する、だ。
それでも今は――セイネリアは腰から長剣を抜くと、そのまま丁度正面に現れた人影に向かって走り出した。
「おいっ、貴様っ」
人数を揃えたせいもあってにやにやと笑っていた男の顔が恐怖に引きつって声を上げる。けれどそれも一瞬だ、すぐにそれが濁った呻き声に代わって目を見開いた死体が一つ出来上がる。走ったままの勢いで根元近くまで相手に刺さった剣を抜けば血が吹き出て、倒れ込んできた体をセイネリアは地面に投げ捨てた。
どさり、と地面に落ちた肉塊の音を合図にして、連中がこぞって声を上げた。
「な、何しやがるっ」
「やる気かっ、この人数相手によっ」
「てめぇっ、ただで済むと思うなよっ」
この国の法はこういう場合に面倒がなくていい。なにせ冒険者同士の諍いは当事者同士で解決しろということで殺人さえ罪にならない。だから別に、襲われる側が襲われる前に相手を殺しても問題ない訳だ。ならば黙って襲われるのを待ってから反撃する必要もない、なるほど――セイネリアはそこで初めてこの法律に感心した。
剣についた血を振り払い、セイネリアは近づいてきた死体の仲間達に向き直る。頭に血が上って一斉に突っ込んでこない辺りはまだ多少頭があるかと思ったが、じりじりと近づいてくる彼らの表情を見ればそれは慎重というよりも怯えているといった方がいいだろう。だから彼らを見て、ことさらゆっくりと余裕をもって言ってやる。
「最初からただで済ます気はなかったんだろ? なら遠慮せず殺しに来ていいぞ」
琥珀の瞳を細めて笑えば相手は言葉を失って固まり、一度周囲が静かになる。
この程度の度胸でこちらを襲う気だったとは呆れる、と思っていれば、それでも度胸がマシだったらしい奴らの内の誰かが叫んだ。
「おいっ、いくら強いと言っても相手は一人なんだぞっ、こっちが何人いるか思い出せっ」
それで呪縛が解けたように動き出した連中を見て……だがやはりセイネリアは襲われるまで待ってやる気はなかった。
「待てっ、ぐぁっ」
――誰が待つか。
まったく、こいつらは取り囲んだ相手は震えあがって大人しくやられるのを待つとでも思っているのか、と内心セイネリアはため息を吐きたい気分になった。とはいえ人数は人数だ、油断出来る状況ではないのは確かではある。
とりあえずこの章唯一の派手な戦闘シーン。
まずあと2話はこの勢いでセイネリア目線での戦闘シーンが続きます。




