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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十章:冒険の前の章
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8・偶然1

 まだ朝と言える時間の娼婦街は人通りがなくて閑散としている。冒険者なんて酔っぱらって路上で寝てしまったらしい者くらいしか見ない通りをセイネリアが歩いていれば、ごくたまにこれから寝るらしい顔見知りの娼婦がいて声を掛けてくる。


「あら、最近みないと思ったらこんな健全な時間に起きてるの?」

「まぁな、いいネタがあるなら今晩顔を出すが」

「ざぁんねん、今日は何もないわよ。でもたまには顔だしなさいよ」

「あぁ、分かった」


 最近首都ではいい情報が入ったという連絡がないと滅多に娼館にいかなくなったため、彼女達に会うと毎回同じようなやりとりをする事になる。首都では情報を得る手段がいろいろできてしまったため足しげく通う程の必要がなくなったからだが、たまには顔を出さないといざという時にへそを曲げられるのは分かっていた。明日明後日で仕事が始まるという状況ではないから、今夜あたりは本当に顔を出しておくか……と考えていたセイネリアは、不自然な女を道脇に見つけてわずかに顔を顰めた。


――娼婦にしてはおかしいだろ。


 わずかに口元に笑みを浮かべて、けれどセイネリアはその女をあえて無視する。

 女の恰好はいかにも娼婦で、お約束のようにストールで顔を隠していた。これが宵の時間なら客を取るために立っている娼婦で済むがこの時間にはあり得ない。

 更に言えば、今のセイネリアには強いの魔法の気配が分かる。


 だから、この女が魔法使いだということは分かっていた。


「ねぇ、おにーさん、ちょっと待ってよ」


 猫なで声を上げるさまは娼婦らしく、ただの演技だとすればたいしたものだ。ただこれではあの『魔女』と同じだと呆れもする。魔女といえば娼婦のふりがお約束なのか、それともセイネリア相手だからこの手なのかは分からないところだが。

 セイネリアが足を止めると、女は顔をストールの下に隠したままこちらに向かって歩いてきた。


「貴方がセイネリアね」


 言いながら、そっと腕に触れてきて――そこで一瞬、ガクリと体から力が抜けた。それが分かった途端セイネリアは女の腕を払おうとしたが、その前に女は自ら飛びのいた。


――触れただけでも吸えるのか。


 油断はしていなかったが、信者でないものの場合、魔女はキスによって生命力を吸うものだとセイネリアは思っていた。ただ向こうは最初からそこまで大量に吸う気はなかったようで、だからこそこちらが反応した時には既に退いていたのだろう。


「さぁっすが生命力に満ちてるわね」


 セイネリアは女に向かって走った。既に魔槍は呼んでいる、現在槍はワラントのところだからすぐに来る筈だった。


「味見しただけよ、ごちそうさま♪」


 けれど女は身軽に飛びあがると、そのまま塀を足場にして今は廃墟となっている古い娼館の屋根まで簡単に上がってしまった。その際に風が巻き上がって足止めをしたから、セイネリアは女を捕まえる事が出来なかった。あっという間に屋根を伝って遠くへ行ってしまった女を追うのは不可能で、手にやってきた魔槍を握りしめてセイネリアは忌々し気に舌打ちをするしかなかった。


「……どうやら俺は、魔女の間でも随分名が売れたらしいな」


 最初からセイネリアを狙ってきたのは確実なところからして、魔女の間で有名になったというなら少々面倒だ。

 考えながら槍を肩に置いて今来た道を戻ろうと振り返れば、そこに別の魔法使いの姿を見つけてセイネリアは眉を顰めた。


「なんでお前が」

「何があった?」


 同時に声を出してしまって、セイネリアは益々顔を顰めた。

 自分が一番良く知る承認者なんて御大層な別名を持つ魔法使いは、気まずそうに咳払いをすると改めて口を開いた。


「あー……偶然この近くにいたんだが、大きな魔法の気配がしたから駆け付けただけだ。何があった?」


このシーンももう一話。

偶然(?)もう一人やってきます。

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