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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十章:冒険の前の章
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1・冒険者達の春

ここから新章のお話が始まります。

 北の大国クリュースとは言っても、領地が広大である為当然南の方面へいけばそれなりに温暖な気候で北国というイメージではなくなる。ただし温暖と言えるのは基本的にかつてはファサンと呼ばれた国の地域であるから、元からのクリュースの土地だけを差すならやはり北国のイメージにはなる。なにせ首都であるセニエティはかなり北寄りな為、冬は長く厳しいからだ。

 そんなクリュースにもやっと春が訪れて、首都も冬の篭り期間が終わってあちこちで人々が動き出す時がやってきた。まだ高い山は雪に覆われ、日陰には雪が残ってはいても、冬眠していた動物たちは動き出し、狩りや薬草摘みが出来るようになれば冒険者達も仕事がぐっと増えてきて町中で姿を多くみかけられるようになる。


「ふ~ん、確かにそれじゃエルがいなかったら大変だったろうね」


 エーリジャが言えば、エルが『おうよ』と声を上げて、愚痴をだらだらと話しだす。

 いつもの酒場は昼過ぎの割りには半分以上席が埋まっていてそれなりに盛況だった。とはいえセイネリア達は店の隅にいるから周囲に他のグループはおらず、直接こちらを見てくる連中はまずいない。春になったと言っても活動を再開したばかりの冒険者達はまだ実際仕事に入っていない者が大半で、だからこそ逆に昼のこんなハンパな時間でもそれなりに人は入っているのだろう。


 セイネリアが今日ここへ来たのはエルに呼び出されたからだが、理由としては首都に帰ってきたエーリジャの出迎えを兼ねた飲み会だ。『いろいろ積もる話もあるだろーし、今後の打ち合わせも兼ねて』との事だが、断る理由はないし、一度彼の様子も聞いておきたかったから了承した。カリンはワラントの婆さんの付き添いがあるそうだから来なくていいと言っておいた。どちらにしろ今日は仕事はじめの顔合わせみたいなもので、重要な話は殆どないとはセイネリアも思っている。


「そらなぁ、俺がうまくボネリオの面倒みてやってたから丸く収まったんだぞ。こいつだけだったら怖い一辺倒でガキはついていけねーよ」

「ははは、だよねぇ」

「おーよ、どう見てもこいつが子供の面倒みられるようには見えねぇ」

「……うん、そう思う」


 彼らは好きに言って笑っているが、否定する材料はないし、その程度で怒る気もないから放って置く。実際のところボネリオが子供らしく泣き言を言える相手としてエルがいたから今回の仕事は上手く行った部分はある。エルという逃げ場がなかったら、ボネリオはこちらの訓練にまともについてこれなかったかもしれない。……というか、自分に対してガキの愚痴をぶつけてきたら放り投げたかもしれないなとセイネリア自身思うところだ。


「まぁガキの扱いに関してはエルがいて助かったとは思ってるさ。ガキは苦手だ」


 言って大人しく酒を呷れば、エルとエーリジャが顔を近づけてわざと聞こえるようにこそこそと話し始めた。


「だーろーなー、こいつはガキがうざかったら平気で道端に見捨ててくるタイプだろ」

「っていうか問題として子供側が無理でしょ。特に小さい子供とかセイネリアの顔を見ただけで泣きだすんじゃないかな」

「あーあるあるあるある……」

「あるよねー」


 好きにいってろ、とセイネリアはそれ以上話に関わる気にはならなかったが、付き合い程度には聞くだけは聞いていた。とりあえず、今後の仕事の方向についての軽い話し合いは酒が入る前に確認しておいたから、今日は後は雑談だけで終わってしまっても構わなかった。ここにいる大半の連中と同じく、セイネリアもまだ次の仕事を見つけた訳ではないから具体的な話が出来る訳もない。

 だが……。


「でもよ、あんたもいりゃもっと楽だったと思うんだよな。ボネリオにとっちゃ俺は兄貴代わりみたいな感じだったけど、あんたがいりゃ父親役をやってやれたろ。そしたら俺ももうちょっと……いや、いーや。ともかく、本当に子供がいるあんたなら上手くやっただろーに」


 エルが考えたのはエリーダの事か、そんな事を考えていたら、唐突にエーリジャの様子が変わった。


「子供……うん、子供はねぇ……難しいよ、難しいぃんだよ~。今回も俺は子供泣かせてきただめな父親だしさぁ~、ごめんなぁロスタ~、父さんだって辛いんだよぉぉ」


 そうして泣き出したいい歳の親父に、笑って話していたエルも顔を引きつらせる。セイネリアはため息をついてエルに聞いた。


「エル、エーリジャは何杯飲んだ」


 セイネリアは後から合流で二人は先に始めていたから、正確に何杯飲んだのか分からなかった。


「あー……4杯かな」


 セイネリアは軽く額を押さえた。エルも恐らく久しぶりだったのと話の盛り上がりもあって彼の酒量に気を使うのを忘れていたのだろう。


「ここの麦酒なら2杯までだ、覚えておけ」

「了~解」


 ともかく、それからのエーリジャはこちらが何か言っても殆ど聞かず、子供の名前を連呼して泣き出すに至ってこれはだめだとセイネリアも頭を押さえて立ち上がった。


今回は仕事に入る前の突発イベント……というか、セイネリア周りの内情やら冒険者システムの紹介的な話がメインになります。


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