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黒の主  作者: 沙々音 凛
第九章:冒険者の章七
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60・別れ1

「元気でやンだぞ」

「……うん」


 エルが言いながらボネリオの背中を叩けば、流石に周囲の警備兵達は困惑した顔をする。すぐ傍にいるオズフェネスが苦笑はするものの特に文句を言っていないあたりで兵士達は黙るが、次期領主となるのが決まったボネリオにエルの態度は確かに問題ではあるだろう。勿論、今回の事情とボネリオ本人の心情的にそれをとがめられる事はないだろうが。


「ンなしんみりすんなって、きっつい時は言えば愚痴くらいは聞きに来てやるっていったろ?」

「うん」


 それに涙を拭いて唇をぐっと噛みしめるボネリオの頭をエルが撫でる。オズフェネスや他の連中も彼らの主となる少年の涙が移ったのか、瞳を潤ませている者も多い。


「じゃぁな」


 言ってエルがボネリオから一歩引けば、これから領主となる少年の目は不安げにエルの姿を追った。けれどエルがこちらに合流し、セイネリアとその目が合うと、ボネリオは急に顔を引き締めてこちらをじっと見返してきた。


――確かに、随分いい顔をするようにはなったな。


 自分の顔を真っすぐ見れるくらいの度胸がついたのなら、きっとあの少年は領主としてもどうにかやっていけるだろう。セイネリアが僅かに笑えば、ボネリオはその場でゆっくりと頭を下げて来てセイネリアの笑みは苦笑となる。傍で主を見ていたオズフェネスもそれには苦笑をしたが、彼はこちらを見てくると――さすがに頭を下げてはこなかったものの目礼を返してきた。


 セイネリアはそれに何も言わず、軽く手を上げてから背を向けた。



 帰りは一応魔法使いが迎えに来てくれて転送で帰れる事にはなっていたが、それを館の連中に見せる訳にはいかないので街を出るところまでは徒歩で行く事にしていた。ただ立場的に館前の見送りが限界のボネリオやオズフェネスに代わって、ファダンの爺さんが2部隊程ひきつれて街の外まで見送りをしてくれる事になった。名目上はセイネリアが最初に訓練に参加した時と同じ『野外訓練』のついでだが、それ以外も多少含んでいるのはセイネリアも承知していた。

 約束通り、街の門をくぐってひらけた場所まできて、ファダンは部隊に号令を掛けて足を止めさせる。セイネリア達はそこで彼らと離れて一度向き直った。


「貴様にはえらく世話になったな、感謝してる」


 言って伸ばしてきた老騎士の手を、セイネリアはいっそ無視してやろうかとも思ったが、掴んで顔を少し相手に近づけてから呟いた。


「まったくだ、感謝だけではなくあんたからは別に謝礼を貰ってもいいくらいだ」

「そういうな、お前も十分いろいろ恩を売れただろ」

「ジジイは本当に若者をこき使う」

「当然だな、若い内はたくさん働いておけ」


 小声のやりとりはファダンの後ろにいる兵士には聞こえていない。ただし、何か話しているのは分かるだろう。


「腹黒ジジイめ、まぁ置き土産分くらいは後で恩を返してもらうぞ」


 捨て台詞のようにそういえば、気楽そうな笑みを浮かべていた老騎士はそこで初めて少し寂しそうに表情を沈ませた。


「……年寄りは先がないんだ、焦るのも分かってくれ。まだ文句があるなら遺言で、儂の装備でもお前にくれてやるように書いておいてやろうか」

「いらん、モノより行動で返してもらった方がいい」

「それなら急げ、なにせ老い先短い」

「安心しろ、そういってるジジイ程長生きする」


 それにファダンは豪快に笑うと、握手をしていない方の手でこちらの腕を叩いてきた。まったく困ったジジイだが、この手の人間は義理堅いから恩を売っておく価値はある。


「せいぜい元気で、若い連中をこき使ってろ」

「あぁ、そうするさ」


 それで最後にもう一度強く手を握り返して離す。

 あとはもう振り向きもせずに歩きだせば、背後からファダンだけでなく兵士達の別れの声が聞こえてくる。エルとカリンはそれに応えて手を振り返していたが、セイネリアはそのまま歩き続けた。これ以上別れの挨拶など必要ない。


次回、ファダンの爺さんの思惑をちょっと解説してあとはエルとかとのやりとりが入ってこの章も終了です。


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