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黒の主  作者: 沙々音 凛
第九章:冒険者の章七
380/1202

46・乱4

――貴様のやり方は悪くない。悪くないが……頭が足りなかったな。


 全ての状況を自分に都合よくもっていこうと計画する――それを貫くには、状況を客観的に見れなければならない。それがホルネッドには足りなかった。


「実を言えば私はあの女が何か企んでいる事を早くから確信していた。だが探ってみようと近づいてみたところで、魔女めは父を連れて別荘へと逃げてしまったのだ。そこから何度も父を開放するよう交渉したのだが……力及ばず最悪の事態になってしまった」


――だから、貴様は破滅する。


「おぉ、ホルネッド様はそこまで考えていたのか」

「魔女めに近づいていたのはそういう思慮があったからだったのですな」


 支持者達のわざとらしい声がまた聞こえてくるが、それに追従する声はほぼなく部屋の中はどちらかといえば静まり返っていた。そんな中、ホルネッドの背後から訴えるような声が上がった。


「何故、それを皆に相談してくださらなかったのですか?」


 その声から一呼吸置いて、人々の間にざわめきが上がる。ホルネッドが驚いて振り向けば、デルエン卿の手を取っていたボネリオが立ち上がった。


「あの女が怪しいと確信してらしたのなら、何故早く皆に相談してくださらなかったのですか。兄上だけでどうにかしようとせず、皆に言っていれば……父上が別荘に行く前に止められたかもしれない、その後でも力づくで父上を取り戻せたかもしれないっ……父上がこんな状態になる前にっ、助けられたかもしれないではないですかっ」


 途端、自分に対する風向きが変わった事を成功に酔っていた男も気付いた。


「何故です、何故皆に言わなかったのですっ」


 涙ながらに訴えるボネリオの声にざわめきが膨れ上がる。確かにおかしいと不審を声に出す者もいれば、ボネリオに賛同してホルネッドを責める声さえ上がる。ホルネッドの支持者達は彼を擁護しようとはするが、その声は次第に大きくなる非難の声に消されて聞こえなくなっていく。

 嘘くさい寸劇に不審感を抱いていた者には、ボネリオの本心からの言葉は響いたに違いない。


「それは……父上の身を案じてだ、父上が魔女の手にあったからヘタな事は出来なかった……」

「それでも兄上は皆に言うべきだったんです。慎重に、まずは信頼できる者にだけでも相談すれば良かった。兄上が考えるのとは別のいい案が出たかもしれない。魔法ギルドや神殿に協力を仰ぐという話が出ていたかもしれない。そうすれば……最悪の結果になる前にどうにかなったかもしれないっ」

「だ、だがボネリオ、お前が思っているほど簡単な問題ではないのだ……」


 ボネリオにそう言いながらもホルネッドの目は周囲を見て落ち着かなかった。ここで上手く立ち回らないと勝利から一転地に落ちる事を自覚して懸命に策を考えているというところだろう。

 そこで彼を更に追い詰めるように、オズフェネスが声を上げた。


「ホルネッド様、私も貴方にお伺いしたい。何故、あの女が危険だと確信していたのなら、貴方がおひとりで動く前に相談してくださらなかったのですか。……いえ、隠居していた我が身で言える言葉ではないですが、ファダン様でも、デナン様でも、クロッツ様でも、ヴォードン様でも……貴方の周りには相談すべき方が幾人もいらした筈です」


 クロッツとヴォードンの名は知らないが、名を呼ばれたところでオズフェネスが視線を投げた辺りを見たところだと、おそらく高位の役人、しかもホルネッドの支持者だろう。


「ご返答いただけませんか? 私には貴方が功を焦るあまり、領主様の身を軽んじられたように思えるのですが」


 それには特に、軍部の連中から賛同の大きな声が上がった。他にも、文官側であってさえ中立だった者達はこぞって不審の声を上げ、ホルネッドを支持していた者達からも一部追及の声が上がりだした。


「わ、私も、あまりの事態に気が回らなく……必死すぎてそこまで考えられなかっただけだ。決して功を焦った訳では……」


――さて、そろそろ三文芝居を終わらせてやるか。


 ホルネッドを問い詰める声が大きくなる中、セイネリアは彼の前に向けて歩きだした。それを止める者はなく、未だ返り血を浴びたままの黒い男に人々は驚いて道を開ける。

 そうしてまだ距離はあるもののホルネッドの正面まで来るとセイネリアは足を止め、琥珀の瞳に昏い笑みを浮かべて声を上げた。


「功を焦ったかどうかは置いておいても、あんたが父親の身を大して案じていなかったのは確かだろ」


 言いながらセイネリアは紙の筒を軽く上に掲げる。

 人々の視線を浴びて、それを包んでいた紐を解くとゆっくりと広げていく。


「ここにあるのはボーセリング卿とあんたの契約書だ。あんたはボーセリング卿と契約してる、暗殺対象はあんたが領主となるのに敵対する人物。勿論、あの魔女が領主に取り入ってから魔女が捕まる間の契約日付だ。つまり、父親に怪しい魔女が近づいていた時には、あんたの頭は既に父親が死んだ後の方に向いていた訳だ」


 その時のホルネッドは一言で言えば驚愕を顔に貼りつかせたまま時が止まってしまったようで、大きく目を開いたその状態で彼は何も言えずに暫くの間固まっていた。当然彼の顔に皆の視線は集中していたから、その表情は確実にここにいる者達に見られた。


ボーセリングの犬が誰かは分かります……よね? まぁその辺りの話はこの後で。

次回でこのシーンは終わり。

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