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黒の主  作者: 沙々音 凛
第九章:冒険者の章七
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43・乱1

 エルが声を掛ければ、外にいた女警備兵の一人、エリーダが振り向いた。


「エル様は今日はボネリオ様についているのではないのですか?」

「あぁ、今日はセイネリアの奴がついてるからな」


 だから暇なんだ、とエルが笑って言えば、エリーダも笑う。


「エリーダこそ、今日は会議の警備じゃねぇんだろ?」

「えぇ、そうですが」


 そこはちゃんと分かっている。彼女の仕事は警備ではあるがさほど重要なポジションではないし、多少抜けたところで問題がない。誰が決めたのかは知らないがそうなっている、とファダンからは聞いていた。

 エルはにっと笑うと、彼女に尋ねた。


「ンじゃちょっと俺に付き合ってくれないかな、何せ今日は守備隊の訓練もねぇし、一人じゃ鍛えるにも張り合いなくてさ。あぁ勿論、ファダンさんには許可をもらってきてる、会議が終わるまでは俺との訓練ってことでいいとさ」


 それには一瞬だけ、彼女の表情が曇ったようにも見えた。ほんの一瞬だから気の所為かと思うくらいだが。それに彼女はすぐに顔に満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに言って来た。


「そうですか、それでは喜んで」






 前回は本当に中枢一部の連中だけの会議だったため、それより人数が各段に増えた今回、まずは本題に入る前に魔女の件についての正式な報告が延々と続くのは仕方がない。セイネリアとしては基本的には知っている話ばかりであるから話自体は退屈なものだが、人の観察にはいい時間ではあった。


 魔女の件の報告についてはまず最初に進行役から大まかな説明があって、次に魔法ギルドから魔女の処分についての話、それから領主付きの治療師と魔法使いから現領主の容態についての説明へと続いた訳だが――最後に、現領主本人が椅子毎運ばれてきて会議場は騒然となった。


「あれが……領主様だって?」

「廃人とは聞いていたが……確かにこれでは」


 デルエン卿が座った椅子を担いで、兵士達が厳かに一歩づつ、赤い敷き布の上を歩いて領主の椅子へと近づいていく。領主の威厳を知らしめる為だろうその登場方法は現状ではまるで見世物のようで、人々はじっくりと呆けた領主の様子を見る事になった。ただし、セイネリアの目はその運んでいる兵士達の顔しか見ていなかったが。

 どの兵も、無表情のようで妙に緊張した面持ちをし、さらに言えば運んでいる6人の兵が全てあの別荘で見た顔だった。その内『お気に入り』だった者は二人だけだが、これはどう見ても意図されたモノがあると思っていい。


 出席者として、更には警備責任者として敷き布の脇に立っているオズフェネスにセイネリアは視線を向けた。暫くすれば彼は気づいてこちらを見返し、セイネリアが頷けば彼は表情を険しくした。


 オズフェネスを呼びつけまでした時点で長子ハーランは追い詰められている。彼にとって状況は時間が経つ程不利になってきている。ならば、おそらくそろそろ、まだ自分を消極的にでも支持している者が多い内に行動を起こそうとしてもおかしくない。

 だから会議が始まる前、セイネリアはオズフェネスにその事を伝えてあった。

 今回、この会議場の警備責任者はオズフェネスだ。ファダンは屋敷全体の警備責任者であってこの会議には出席していない。オズフェネスは傍にいた兵士数人に耳打ちをしながら、目は運ばれてくるデルエン卿から離さないでいた。


 周囲の人々のざわめきは段々と大きくなる。議長もそれをたしなめないから、人々がこぞって現領主の容態について不安と嘆きの言葉を交わし合う。


 そこで唐突に、椅子に座っている領主の姿が崩れた。正確にはその椅子を持っている者が崩れたのだが――だらりと力なく椅子に座っていた領主は、椅子が崩れれば無防備に宙に放り出されるしかない。人々の悲鳴が上がる、セイネリアの隣でボネリオが叫んだ。

 それらから一つ抜けて、ハーランの怒声が上がる。


「今だ、我に忠実な者たちよっ」


 その声が上がると同時に、場内で壁際にいた警備兵の大半が唐突に他の警備兵達を攻撃しだした。人々が逃げ惑い、会場の出口に押し寄せるもののそこはハーランの配下に抑えられて外に出られず、各要人についている護衛達が反乱を起こした兵達と戦う事になった。オズフェネスは真っ先に傍の部下を連れて領主を運んでいた兵達の方へ向かい、そちらで戦闘に入っていた。


「父上っ、父上っ」


 父の元へ向かうボネリオを、セイネリアは止めることもせずにカリンに言った。


「カリン、ボネリオは任せた」

「はい」


 すぐにカリンはボネリオを追いかける。幸い現状ではボネリオを積極的に殺そうとする兵士はいないし、ボネリオが向かった先はオズフェネスがいる。

 だからセイネリアは騒ぎの中、真っすぐハーランの元へと向かった。ハーランは周囲の兵達を引き連れてホルネッド達文官が固まっているところへと向かっていた。各人の護衛達がどうにか押さえて押し合いにはなっているが、現状では文官達が追い込まれているように見える。


――今は貴様のために動いてやるさ。


ここから暫くは会議内の騒ぎの話が続きます。


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