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黒の主  作者: 沙々音 凛
第九章:冒険者の章七
362/1202

28・シシェーレの街にて2

 カリンが尋ねると、男は周囲を見渡してから言ってくる。


「あぁ、なにせハーラン様はその……あまりね、評判がいい方ではないから。次男のホルネッド様の方が評判がいいし、正直我々もその方が……な」

「ホルネッド様は良い方なのですか?」

「そうだなぁ、普段から神殿や冒険者事務局によく顔を出していらっしゃるし、商人組合へ回ってくる書類にも名前が入ってらっしゃるからお仕事熱心な方だと思うがね」

「少なくともハーラン様のような乱暴者という話は聞かないしな」

「頭のいい方らしい」

「領主様が頭のいい方なら、オズフェネス様が守備兵団長に復帰すれば文武両方で不安がなくなるだろ」


 それに他の者達も同意の声を上げる。少なくとも次期領主候補としてハーランが望まれておらずホルネッドの方を望む者が多いというのは役人と領民の共通の認識らしい。

 だがそこで、その輪の中にいた一人がぽつりとつぶやいた。


「とはいえ、ホルネッド様もハーラン様と争ってあの魔女の機嫌取りをしていたという話だしな……頭がいいといっても本当にいいと言えるのか」


 そこで皆悩んで発言が止まってしまったから、カリンは彼らとの話はここまでにする事にした。


「いろいろお話をお聞かせくださってありがとうございます。その……私も焦らず、仕事の件は次の領主様が決まってから探してみる事にします」

「あぁ、それがいいよ。へたに争い事に巻き込まれないためにも」

「はい、それでは、ありがとうございました」


 にこりと笑って手を振れば、彼らも笑って手を振ってくれる。そこから再びフードを被ってカリンは人の流れの中へと入っていった。





「いいか、ここにいろいろ仕事が貼ってあるから評価がそんなに高くない奴はまずはこれを見る訳だ。ほら、これが仕事内容でこっちが条件な。まー……もう冬ンなるし地方だとやっぱ大した仕事はないけどな」

「悪かったな、地方で」


 暇そうな事務局員がそう言ったから、周囲にいた人間達も笑う。

 この時期は街間移動する人間が殆どいなくなるし、仕事もなくなるから事務局の中は人もまばらで、いるのはここを拠点にしている見知った顔ばかりというところだ。そのせいか周りの雰囲気も軽く、いわゆる身内ノリのアットホーム感がある。そんな状況だから冒険者志願の少年が瞳を輝かせて説明を受けているところへは、あちこちからつっこみやら補足やらが良く入っていた。


 約束通り、ボネリオをシシェーレの冒険者事務局に連れて来た訳だが、主に解説はエルに任せてセイネリアは基本黙って後ろで立っているだけにしていた。とはいえ中に入った最初の内はセイネリアはその風貌で相当警戒されたらしく、周囲の空気はピリピリとしていたのだが。そこでエルが一声挨拶をして『これから冒険者志願のこの坊主に冒険者の仕事について解説してやるんで、ちっと煩くても許してくれよな』と言った後からは今の状態だ。

 ……本当に、こういう場所でのエルの機転の利きぶりは感心する。


「いや~悪ぃ、馬鹿にしてる訳じゃねーからさ。それに首都だって冬場はロクな仕事はねぇよ。どこもこの時期の仕事といや、雪かきとか荷物運びばっかだし」

「そこはまぁ、南でもいかねぇ限り変わらねぇな」

「だよ。冬は仕方ねぇ」


 周囲にたむろしてる冒険者達はまた笑って、事務局員達も一緒に笑う。だがそれも聞こえていないのか夢中で募集版の仕事を見ているボネリオは、そこで説明役のエルの服を引っ張って聞いた。


「エル、ねぇこの難易度2~6ってなんでこんなに幅があるの? ここにあるのってそこまで難易度の高くない仕事だよね」


 それはこの時期にはめずらしい害獣退治の仕事で、となるとその書き方はお約束の理由となる。


「あーそういうのは依頼者も目的の難易度が分からねぇからだよ」

「どういう事?」


 素直な瞳でエルに聞くボネリオに、周りの冒険者たちも楽しそうな顔をしている。この時期にここにいる人間は、仕事を取りにきたというより情報交換や雑談をしにきた人間が多いから暇つぶしとしては面白いのだろう。


「うん、害獣被害とか化け物退治とかはさ、はっきり敵がどんなのか分からないってのが多いンだよ。姿見てないとか、被害者は全部死んでる、とかな。そうすっと難易度は憶測で書くしねぇだろ。ただそういう仕事も仕事受けた奴が逃げ帰って来たり死んだりして段々状況が掴めてきて難易度が確定されてく訳だ」

「へー。難易度って変わるんだ」

「おぅ、仕事受けたら思った難易度じゃなかったって事はザラだ。だからもし受けた仕事がこれは自分じゃ無理だって思った時にはな、出来るだけ敵に関する情報を手に入れたらさっさと逃げるんだぞ」


 そうだそうだ、と茶化す声が入って周囲はまた笑う。

 パーティで人に説明してやる事も多いからか、エルの話は基本的には分かりやすくて、あまり彼らも突っ込む程の事がないのだろうか、基本はこうして茶化すのがメインだった。


次回も冒険者事務局での話+帰ってきてから……。

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