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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二章:首都と出会いの章
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8・老騎士

 果たして――。

 思った通りの人影を見つけたセイネリアは、暫く黙ってその人物をただ観察した。

 老人、と言える年齢に差し掛かったばかりの男が、ただ無心に剣を振っていた。

 頭は大半を白で覆われている男は、だがその眼光は鋭く、上着を着ていない剥き出しの上半身はヘタな若者では太刀打ちできない程見事に鍛え上げられていた。剣の振りはその瞳そのままに鋭く、速く、体の動きにはどこにも彼の歳を感じさせる衰えは見えない。張り詰めた空気を切り裂くように剣が縦横無尽に舞う姿は、セイネリアでさえ見とれる程見事なものだった。


 確かに、この男は強い。


 それが瞬時にわかる程には、男の動きには隙がなかった。

 彼が、ナスロウ卿本人である事は疑う余地がない。セイネリアは我知らず口元に浮かぶ笑みと、力が入って握りしめられている自らの掌を感じて満足げに大きく息を吐いた。そして一歩、男に近づくように足を踏み出せば、それを察したナスロウ卿の動きが止まった。


「ほう、お前の得物はソレか?」


 言われてセイネリアは、思い出したように自分の手に持っていた大斧に視線を落とす。


「あぁ、そうだ」


 答えれば、老人は顎に手を当てて考える素振りをみせた。


「剣は使わないのか?」

「どうも軽くて持っている気がしないんだ」


 そこまで言うと、この老人、ナスロウ卿はにやりと笑う。


「力には相当自信があるようだな。確かに素晴しく鍛えてある体だ」


 歳の割には背も体格も規格以上のナスロウ卿ではあるが、セイネリアに並べば年齢の衰えを意識せずにはいられないのだろう。僅かにこちらを見上げている老人の瞳には羨むような色が浮かんでいた。


「先に体を作ったからな、今はその使い方の方をどうにかしている最中だ」

「成程、それで従者になりたいと?」

「俺は、強くなりたいんだ」


 ほう、とナスロウ卿はまた顎を擦って、セイネリアの顔をじっと見つめてくる。


「いい面構えだ、噂通りだな、セイネリア」


 笑う男の顔を見ながら、セイネリアは少しだけ意外そうに眉を寄せた。


「こんなところに引き篭っていて、俺の事を知っているのか?」

「なぁに、いろいろつてはある」


 つまり、形式上は引き篭っていても、それなりに首都に手を回せるだけの手段も持っているのだろう。だからこそこの男を始末したい連中がいるのだろうが。


「度胸もいい、頭も悪くはなさそうだ、後は腕を見るだけだな」


 言って剣に手を掛けた相手を見て、セイネリアは肩を上げる。


「今からというと、負けたら朝飯抜きで帰りか、意地が悪いだろ、あんた」


 それには、剣から手を離してナスロウ卿が声を上げて笑う。余程面白かったらしく腹を抱えて暫く笑い声を上げている老人を、セイネリアも軽く笑みを浮べそれが収まるのを待っていた。


「本当にいい度胸だ。心配するな、どんな結果になっても朝飯くらいは出してやる、それに関しての心配は無用だ。……あぁいや、どんな結果でも、ではないか」


 それには、途中で言葉を止めたナスロウ卿のかわりに、セイネリアが続けた。


「俺が死んだ場合を除いて、だな。確かに死んだら飯の必要はない、当然だな」


 さらりと言ったその言葉を聞いて、ナスロウ卿もまた意味ありげに口元をつり上げる。


「覚悟はしている、という事か」

「負けたら死んでも文句は言えない」

「その通りだ。ならば勝つ気で来たか、小僧」

「勿論だ。勝つ気がないなら武器はとらない」

「いい返事だ。期待を裏切らないで欲しいものだな」

「そちらこそ」


 ナスロウ卿はまた喉を震わせて笑い、笑いながらも剣を抜いてセイネリアから距離を取るように歩き出す。


「力を見るのだから一本勝負だ。どちらかが負けを宣言するか、俺が止めるまで。いわゆる何でもアリのルールで、使えるなら術を使っても構わんぞ」



次は戦闘シーン予定。

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