表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の主  作者: 沙々音 凛
第九章:冒険者の章七
346/1202

12・蚊帳の外

 沈んだ顔の少年は、会議のあった部屋から自室に帰るまでの間に何度ももため息をついていた。

 部屋に着くと椅子に腰かけ、項垂れた彼の隣にエルが座った。


「元気だせ、って言える状況じゃねぇけど、愚痴くらい聞いてやるし、ちゃんと守ってやっからよ」


 言ってエルが少年の背中を叩けば(彼にしてはちゃんと手加減をしているらしい)、ボネリオは弱弱しくも笑ってエルの顔を見る。


「うん……そうだね、ちょっと状況が飲み込めなくて混乱してるだけだから。でも貴方達がいてよかった、一人だったら心細かったと思う」


 少年を励ます役はエルに任せて、カリンは少し考えた。


 今回の会議は例の魔女の所業と、それによって領主であるデルエン卿が現在どういう状況であるかという事に関する報告会で、当然ながら魔法ギルドからも3人の魔法使いが来ていた。報告自体はここの役人がやっていたが、終わってから魔法ギルドの者が前に出て謝罪と補足の説明を入れた。今回は会議というより報告の場だったので非難や問題提起の発言は出なかったものの、出席者は困惑と不安一杯といった表情の者ばかりで、ざわめきは何度も起きた。

 ことがことだけに即決できる問題ではないのは当然だから、具体的な対策の会議はまた後日という事で一応会議は終了した。


――さて、ここからどう動くか。


 現状はまだボネリオのように状況を理解するのがやっとで今後を考えるどころではないという者が大半だろう。現時点ですぐ動こうとするのは次期領主の座を狙う長男と次男の勢力くらいで、基本は互いをけん制だろうが頭のいい者がいればボネリオの存在が無視出来ないと気づいて手を打ってくる可能性はある。

 チラとカリンが少年を見れば、彼は青い顔ながらも少し気を持ち直したらしくエルに笑って言っていた。


「……でもさ、これで逆に俺は冒険者になりやすくなったかなとも思うんだよね。だって、この状況なら俺はさっさと家を出て行った方が兄上達の邪魔にならないし」

「あー……そうだなぁ、そうとも言えるっちゃ言えるかね」


 事情が分かっている分エルは引きつった笑みで誤魔化しているが、ボネリオ相手ならそれで不審に思われる事もないだろう。特に今は他人を邪推してみれるような精神的余裕はないだろうというのもある。


――それにしても、どこまで鈍いのか。


 ボネリオはまだ自分は蚊帳の外だと思っている。

 兄二人が魔女にどれだけ熱を上げていたのかを知らないか、もしくはそれをそこまで重用視していないか。頭の回転は悪い方だとは思っていたが、ここまでくると自分を否定しすぎなのかただの馬鹿なのか悩むところだ。

 既に先ほどの会議退場の時から、一部の貴族がきちんと頭を下げていたのを見ていなかったのだろうかとカリンは思う。


 セイネリアの予想では、ボネリオが自覚出来る程あからさまに周囲から候補者扱いをされ出すのは、魔女の事がある程度知れ渡って、兄二人を非難する声が出始めてからだろうという事だ。カリンは、早めに気づいて態度を変えてくる者の顔は覚えておけと言われている。

 とはいえ、この卑屈なくらいに自分は蚊帳の外と思い込んでいる少年が領主になるのは難しいのではないか。カリンはそう思うのだが、セイネリアのいうところでは良い主になる素質がない訳ではないらしい。


『善良でプライドが高過ぎず自分に自信がないからこそ人の話も聞く。いい部下がいるなら良いトップにはなれるタイプではあるさ』


 つまりお飾り領主としてはいい素質だという事だろうか。確かに、部下が優れているなら上はそこまで優れていなくてもいいとは思うが、このやる気のない少年に『優れた部下』がついてくれるかが一番の問題ではないかとカリンは思うのだ。


今回は事情説明的1シーン。一応これでも状況はちょっとづつ進んでいます。

次回はまたセイネリアサイドの話。味方側のこの章の主要キャラは次回で出揃うかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ