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黒の主  作者: 沙々音 凛
第九章:冒険者の章七
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11・訓練の付き合い3

「はじめっ」


 ファダンの声に合わせてセイネリアは走る。それは向こうも想定済の行動らしく、槍の浅く速い突きが繰り出される。距離を保つためのけん制だがその動きは冷静で正確だ、少なくとも前の二人よりは強いと思っていい。

 それにいきなり突っ込む事はせずにセイネリアは足を止める。槍を伸ばした時の距離ぎりぎりの位置にとどまれば、相手は一歩こちらに踏み込む。当然こちらも一歩下がる。同じ距離を保って突き出される槍を避けながらセイネリアが後ろに下がっていけば、外野が彼女の応援でわっと盛り上がった。


 とはいえ、セイネリアもただ下がっている訳ではない。


 同じ動きを続けてくれればタイミングが読める。そうすれば――セイネリアは相手が突くタイミングに合わせて避けると同時に前に出た。槍を引いても刃が届かない位置まで一瞬で詰めれば、向こうも槍術から棒術に動作を変える必要が出てくる。身を引きながら持ち手を変えて、突くのではなく柄で叩いてくる。

 だが、それでこちらの体を離すには力が足りない。

 セイネリアはそれを左腕の装備で受けると、右手だけで剣を持って真っすぐ相手に伸ばした。両手剣を片手持ちなど攻撃というより曲芸じみた脅しだが、相手はそれに焦って大きく後ろへ飛びのいた。しかも急ぎ過ぎて体勢が崩れ、下がった先ですぐに構えが取れなかった。


――棒術の動きはエルの方が上だな。


 彼なら恐らく、体勢が崩れても下がりながら攻撃を入れて追撃を防ぐくらいはする。

 槍は比較的未熟な者でも優位に立てる武器ではあるが極めようとすれば難しい。一般的には接近されると弱いのが短所とされるものの長い柄を生かして棒術として使う技能が高ければ接近戦でもさほど困らなくて済む筈だ。


――悪くはないが、惜しいところか。


 ただ飛びのいたその動きはいい、女のわりに身体能力はかなり高いという事だ。

 そのまま一気に押せば決着がついたところだが、セイネリアはあえてそうしなかった。


「待ってやる、術を入れてみろ」


 どうにか構えなおした相手は、こちらを睨んでくると明らかに怒った声で言って来た。


「馬鹿にするなっ」

「別に馬鹿にしていない、術が入ったらどういう動きをするか見てみたいだけだ」

「……それだけか?」

「それだけだ、お前の動き、本来なら術を入れる前提なんだろ。それを見ずに勝負を決めたら勿体ないじゃないか」


 相手は少し黙ってこちらを見ていたが、分かった、と呟くと術を唱え始めた。思った通りアッテラの強化術、だが神官ではないから1段階だろう。それでも、力に難がある者からすればあるなしでは動きがかなり変わる筈だ。

 術の後、構え直してこちらをみたからセイネリアは再び相手に向かっていく。お約束通りの速い突きの連続で、基本はこちらを近寄らせまいとするのは変わらない。距離がある内はそれで正解だからそこは仕方ないところだ。

 ただ強化を入れた所為もあるのか突くスピードは僅かに上がっている。とはいえまだ十分目で追える範囲だから脅威という程ではない。セイネリアはまた槍が伸ばされるタイミングと同時に踏み込むと、今度は剣で槍を払って前に出た。


「くそっ」


 当然こういう時に中途半端な踏み込みなぞしないから、向うが槍を引く時には既に槍刃を戻して刃を当てられる位置にはいない。

 だが向うも同じミスを続けてはしない。槍を回して刃のついていない柄の後ろ側でこちら叩いてくる。

 かろうじてそれは間に合って剣と槍の柄がぶつかる。向うは回した分の威力を使って弾き飛ばしたかったところだろうが、セイネリアが剣で止めたからそれは叶わない。

 いくら強化があってもこのまま力で押すのは無理だ――すぐそう判断したらしく、相手は精一杯の力で剣を押した後、押し返される反動を使ってまた後ろへ飛んだ。だが今度は大人しく距離を取らせてはやらない。セイネリアは押す力のまま前に出て、体勢が整いきってなかった相手の懐へ一気に駆け寄った。


「そこまで」


 セイネリアの剣が相手の腹の前で止まると同時にファダンの声が上がる。声もなく見ていた周囲の連中からは、そこで一斉に安堵の息が吐かれた。悔しそうに顔を顰めた女は、だがすぐに立ち上がるとセイネリアに向けて礼をした。


エリーダが話に絡んでくるのはもう少し後になってから。

次回はエルとカリンの方のお話。

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