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黒の主  作者: 沙々音 凛
第九章:冒険者の章七
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10・訓練の付き合い2

 基本的にこの国の人間はどこかの神殿の信徒となっているから何かしらの術を使えると思っていい。術を使えないのはセイネリアのような無神論者か、他所の国や部族出身者で生まれた地の神をそのまま信奉している者くらいだ。

 だからこそクリュースではこの手の試合では最初に『術あり』か『術なし』かを宣言して始める事になっている。訓練ならあえて術を使わないというところも多いが、おそらくここではアッテラ信徒が多いから術ありの方が実践に近いという考え方なのだろう。


「第二守備隊、ラディ・ダンクトンです」


 最初の相手として出てきた人物はなかなかに大柄な体格のいい男で、いかにもアッテラ信徒らしい風貌と言えた。得物は剣で、抜いて構えるところまでは事前動作として許されているから互いに構えを取って開始の声を待つ。


「はじめっ」


 セイネリアは声と同時に走りこむ。思った通り、相手はのんびりと強化術を掛けようとしたから、セイネリアの姿を見て焦って受ける準備が遅れた。

 だから勝負はすぐにつく。

 急いでどうにか剣で受ける事は出来はしても、体勢が整っていない状況ではどうしても無理がある。必死で受けた男を冷ややかに見下ろして、セイネリアは合わせた剣から急に力を抜くと体ごと引いた。


「うわ、ま……」


 そうすれば精いっぱいの力で押し返していた男は前につんのめる。もとから急いで受けたため足元が不安定だったこともあり、そこで簡単に体勢を崩す。

 それでも必死に踏ん張ってどうにか倒れずに済んだ男だったが、ほっとしたところでセイネリアの剣が首の前に当てられればそれで終わりだ。


「第四守備隊、クラーレ・ホルソンです」


 次の男も得物は剣で、たださすがに前の男を見ているから開始早々に術を使ったりはしなかった。


――慎重派というところか。


 それでは術を使う機会を失うだろ――と内心で思いつつ、相手がゆっくりと回りこみながらこちらに向かってきたからセイネリアも合わせて横へ移動しながら距離を縮めていく。だが剣が届く距離になって即踏み込めば、相手は焦って後ろへ大きく飛び退いた。セイネリアが剣を伸ばす前に逃げた相手に周りからどっと笑いが起こる。


「おいおいクラーレびびりすぎだぞ」

「なぁにやってんだ、さっさとつっこめ」


 周りの野次に相手は舌打ちする。それでも焦ってとびかかったりしてこないところはまだそれなりに出来る奴なんだろうとは思うところだ。

 再びセイネリアは相手に向かって大きく踏み込む。今度はフェイントではなく剣を伸ばせば、相手はそれを受け流しながら一歩引く。もう一回剣を伸ばせばやはり同じように剣を受け流して引く。どうやらマトモに剣を合わせる気がないらしい。

 この手の人間の狙いは分かってる。こちらの手数を多く出させてミスを誘うつもりだ。


――なら望み通り手数で押してやろう。


 今度は切り替えて、セイネリアは相手に剣を振り落とした。突きと違ってこれは受けざる得ないから、相手は剣で一度まともにうけてから流そうとする。


――その必要はない。


 受け流す手間は省いてやる。セイネリアは相手の剣を叩いた後にすぐに剣を引き、再び叩いた。何度も、何度も。それを相手はひたすら受ける。ガン、ガン、とただ剣と剣がぶつかる音が響く。最初の内はしっかり受け止めていた相手の剣が、押さえきれずに揺れてくる。揺れ幅は次第に大きくなり、相手の表情が苦し気にゆがんでいく。

 そしてついに何度目かの打ち込みの後、相手は受け止めきれずに剣を落とした。そこですぐにファダンがセイネリアの勝利を宣言して終わりとなる。


「第五守備隊、エリーダ・ローウェイ」


 最後の三人目は女の槍使いだった。


「向こうは槍だが武器の変更は必要か?」


 始まる前にわざわざファダンがそう聞いてきたところからすると、この爺さんもセイネリアの魔槍の事を知っているのかもしれない。


「いや、このままでいい」


 単純に武器だけの優劣で言えば、槍相手なら剣は明らかに劣勢となる。それだけ武器の有効範囲の差は大きい。

 だがその程度の理由であの仰々しい魔槍を出すのも馬鹿らしい。しかも相手が女なら少なくとも腕力的に相当の差がある筈で、武器の不利があって丁度いいくらいだろう。


という事で最後の一人は次回。女の槍使い……いかにもですがこの章の新キャラさんです。

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