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黒の主  作者: 沙々音 凛
第八章:冒険者の章六
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68・休憩

 外の敵はもういないだろ、と思ったら、屋敷からわらわら出て来てセイネリアはまた処理に追われる事になった。正直うんざりしかけたが、どうせこの後は屋敷内の連中を集めるつもりだったのだから手間が省けたとも言える。

 それに連中は外から集まるのと違って決まった出入り口から出てくるしかないから、そこへ陣取ってしまえば効率よく回収作業も進んだ。

 ただ出入り口が一つという事はあり得ない。その証拠にセイネリアの押さえていた出口からは割合すぐに敵が途切れた。だからセイネリアはおそらく別の出口から出たであろう連中が向かったと考えて、エル達の方へ向かったのだ。


「きつそうだな」


 やっと敵が片付いて合流すれば、エルはこっちに文句の一つも言わずにまずその場に座り込んだ。


「……る、せぇ」


 暫く待ってからやっとそれだけを呟くのが精一杯という彼を見ると、本気で限界だったらしい。


「お前は少し休んでろ。次に行く予定だった屋敷の中の連中も今ので一気に出て来てくれたみたいだからな、あとは小部屋潰しだ」

「おー……」


 それでエルは渡した水を飲むと、その場で大の字になって寝転んだ。周りがそれにくすくすと声を漏らして笑うが、開き直った彼は動じない。反応する程の体力が残っていない、という方が正解だろうが。


「言った通りだ、向うももう無事な兵士はろくに残ってないだろうし団体が来る事もそうない筈だ。ただ今のうちに転がしてある『お気に入り』連中だけは縛っておいた方がいい」


 言えば各自、了承の返事を返して、軽く座った体勢のままこちらに真剣な目を向けてくる。


「それが終わったら予定通り残りの連中の回収だが……少しやり方を変える」


 おそらくもう、後は隔離された場所に固定されている連中しかない。とはいえ、一か所に多くはいなくても、面倒だと思う程度にはいるだろう。なにせ地下には先に倒しておいた連中が転がっている部屋がいくつかある、あれの回収もしなくてはならない。思った以上にそいつらを集めるのは手間がかかる筈……と、魔女も考えるだろう。


「説明はするが……その前に魔法使い、先にあんたに話がある。最初に俺がいた部屋の隣にもう一つ部屋があったろ、そこへ穴を開けてくれるか? こっちの穴は解除してくれていい」


 扉を投げればフロスは一度眉を寄せた後に、いいですよ、と立ち上がる。

 セイネリアは残った連中に向けて言った。


「お前達はもう少し休憩してろ。何かあったら呼びに来い」





 正直、たいしたものだと魔法使いナリアーデはあの男とその仲間達に感心していた。

 庭に出たのを見てならば一気に潰してやろうかと思ったのに、あれだけの人数をどうにか捌き切ってしまった彼らは確かに冒険者としてかなり優秀なのだろう。まさかあの数をどうにかすると思わなかったというのはあの高台の時からだから、本当に大人しくこちらのもとに下ってくれれば良かったのに、と思わずにはいられない。


「でもどれだけ優秀だったとしても、あの男だけは許さないわ」


 あれだけの暴言を吐いたあの黒い男だけはどれだけ優秀だろうが許す気はない。それにおそらく、あの手の男は無理矢理駒にするのも難しいだろう。なにせ普通の方法で暗示が効くようには見えないし、動揺を誘うのも既に失敗している。それより本人の意志としてこちらに敵意があるのなら殺してしまうのが最善なのは確実だ。ヘタに頭が回って強いから、単純に敵側にいれば脅威である。

 とはいえ、ここであの男だけを殺す、というのは難しい。


「……随分のんびりしてるのね」


 傍にいる駒が全て処理されてしまえば、彼女が見て追えるのは強い魔力――つまり彼らについている魔法使いの居場所となる。その魔力が最初にあの黒い男を連れて来たところに移動したから、魔女は今現在あの部屋に視界を固定していた。あの部屋は最初から『観戦』用の部屋だから自分の能力でいつでも見る事が出来る。だがやっている事は倒した連中を穴へと放り投げているだけで、単にあそこにいる連中も集めているだけなのだろうと思われた。

 のんびり、というのはそれが全員でさっさと片付けるのではなく、あの黒い男一人でやっているからだ。


「こっちが焦ってない、というのを見越してるのかしら」


 彼らの計画的に、まずさっさと人間を一か所に押し込めていつでもこちらをおびき寄せられる状況にしたい筈だ。それなのにあの男一人に任せて他は休憩、なんて随分をのんびりしているという他ない。

 だがそれはきっと、まだこちら側に余裕がある、と向こうが高をくくっているからだろう。

 つまりどうせまだ当分こちらは動かないと予想して、のんびり準備しているという訳だ。あの憎らしい男なら、そうして余裕そうに構えているだろう姿が容易に想像出来た。


「ほんと、男って馬鹿ねぇ。余裕があるから動かない、じゃなくて賢い者は余裕がある内に追い詰められない為の手を打っておくものよ」


 余裕がある内なら、やれることも多くタイミングも好きに選べる。魔女は唇を艶やかに吊り上げた。


そろそろ魔女の件は決着がつきます。

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