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黒の主  作者: 沙々音 凛
第八章:冒険者の章六
303/1202

46・侵入1

 赤毛の狩人おやじが弓を引いて、一番目立つ場所にいる見張りに矢を放った。

 それが合図で、エーリジャのいる場所とは門を挟んで反対側になる堀の傍にいたエルは、そこから助走を付けると堀の直前に長棒をついてジャンプし、どうにか堀を飛び越した。……勿論事前に強化を一段掛けておいたのはいうまでもない。


「何者だっ」


 上がった声にびくりとするが、その後ばたばたと聞こえて来た足音はエルの方ではなくエーリジャの方へと遠ざかっていく。それに胸をなでおろしてエルは石塀を乗り越えると屋敷の敷地内に入り、塀から少し離れたところで辺りを見渡した。


「で……この辺でいいのか?」


 幸い周辺は庭木が密集しているところで、ここなら遠くから見える事はないし周囲に人がやってくることもなさそうだ。エルは周囲に注意をしながら、畳んで腰に括り付けておいたエーリジャのマントを広げた。


「なんていうか……まー便利っちゃ便利だよな」


 ぶつぶついいながらもエルはエーリジャから貰った呼び出し石を使う。これは冒険者事務局から本人だけが買えるもので、要はその石を使えば冒険者の証でもある本人の冒険者支援石が光って呼び出しがあった事を知らせるというシロモノだ。互いに認めて固定パーティを組んでいれば大抵仲間に数個ずつ配るものだが、普通はこれと合わせて事務局に伝言なり手紙なりを残すものでもある。なにせこの石は単に呼び出しがあったという事を知らせるだけで、用件内容は勿論、呼び出した人間さえ分からないのだ。だから基本は、呼び出し石が光ったら事務局へ行って自分に何か届いていないか確認する、という使用方法だ。

 とはいえ、こういう時には単なる合図として使えて便利だ。いや、こういう使い方があると知ったのはエーリジャに言われて初めてだったが。そこはさすがに年長者と言うところだろう。


 石を使うとすぐ、エルは広げたマントの端をもって立ち上がる。前の時、セイネリアのマントで矢を防いだ時と同じ……ただし今回は一時的にだから棒を使わず手で広げて垂らしただけだ。

 冷静に考えれば一人でこの恰好は間抜けだと思わなくもないが、そこは気にしないようにしてあとはただ待つしかない。マントの表面には矢を防いだ時のようにフロスが魔法で例の『穴』をあけている。断魔石はおそらく塀周辺を重点的に守っているだろうからここまで離れれば影響はない――理論はエルもよくわからないが、例え途中が断魔石で遮られていてもこうしてこちら側に受け止める出口があれば転送は可能だという事だ。


『空間転送自体は異空間を通るので上手く迂回すれば石の影響を避ける事も可能です。ただ断魔石で遮られると向う側が見えなくなるので出る場所が指定できずルートを決められないんですよ。出口が指定できないと異空間でさ迷う可能性もありますし、無事出られたとしても何かモノがあるのと同じ座標に出れば命の危険もあります。ですが最初から異空間側に出口を作っておけばそれを目指せばいいだけです。まぁ、ある筈の穴が見つからないならこちらで穴を用意しようという発想です』


 うん、わからねぇ――魔法使いの言っていた事を思い出してエルは顔を顰めた。


 ともかく、誰も来ないうちにさっさと来てくれと思いながらエルはただ待つしかない。もし追い付かれて逃げている最中だったらどうしようとか、逃げてるだけならまだしも捕まってたらどうしようかとか――実際は大した時間じゃない筈なのにやきもきしていれば長く感じて、それでもやっと広げたマントから手がぬっとあらわれるに至ってエルはほっと息をついた。


「おせぇ」


 エーリジャの顔が見えたところでそう言えば、彼は肩を竦めてからこちらを向いた。


「ごめん、ちょっと逃げてた」

「かなーとは思ってたけどさ」


 続いて魔法使いが出て来て、エルは安堵しつつもハタから見たら相当にシュールな光景なんだろうなと苦笑した。


「どうよ、あんたの予想通り、中はガバガバって感じか?」


 すぐに周囲を注意深く見ている魔法使いに声を掛けてみれば、フロスは建物の方を目を細めて見つめながら返す。


「そうですね、ここからの移動は楽にいけそうです」


このシーンは3話。ってことで次回はこの続き。

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