43・魔法使いへの感情
セイネリアと組む事になって、こうして魔法使いの実情というのを多少は知るようになって……正直、エーリジャは魔法使いというのが思った以上に恐ろしい、というか、不気味な存在だという事を今回実感してしまった。
なにせ、彼らはどんな遠くでも気楽に一瞬で移動出来て、監視して居場所を探る事も容易、更に人々を操れる者もいる……と考えれば、もしかして魔法使いというのはこちらが思う以上に高位にいる存在で、こちらを見下しているのでは……なんて事さえ思ってしまう。
彼らに悪意があるかないかに関わらず、それを考えれるとこのフロスでさえ単純に『仕事仲間』という目で見れなくなるのだから困るところだ。
「では、準備が出来たら飛ばしますよ、いいですか」
フロスの問いかけにエルとエーリジャ、それぞれが了承の声が返す。
そうすれば魔法使いフロスは杖で輪を書くように床をなぞると、その輪の中へ入ってこちらにもその中へ入るように言ってくる。
言われた通り、エルとエーリジャもおそるおそる中に入る。それだけで何か起こる事はなかったが、魔法使いが杖を掲げて二人はごくりと唾を飲み込んだ。
「では、行きますよ」
魔法使いは小さく何かを呟くとそのまま杖を下し、トントン、と床を二度叩いた。直後、見えていた風景が変わる。
「……どこだ、ここ?」
エルの呟きは当然エーリジャの感想でもあって、二人共に顔を顰めて辺りを見回す。
「シシェーレの外れ近くの森ですよ。あれがデルエン卿の別荘になります」
確かにここは見覚えのない場所だが森の中で、フロスが指さした先にはいかにも貴族のものという立派な屋敷が見える。
「さて、ギルドのポイントはここまでなので、ここからは私が自力で飛ばす事になるのですが……やはり、すんなり入れはしませんね」
「あぁ……そうか、確かに領主様のものなら、基本の魔法対策はされてるって訳か」
「そういう事です」
これだけ魔法が日常なクリュースにおいては、当然魔法対策の手段も一応はある。一般的に魔法使い対策といえば断魔石で、石の大きさや強さにもよるが一定の範囲内の魔法を遮断する事が出来る。貴族や国の施設などは大抵それが埋め込まれて守られているそうだが、実際のところそれがどれだけ効果があるのかはロックランの結界術以外、魔法とは無縁の生活を送ってきたエーリジャには分からない。
「まぁでも大抵穴はあるんですけどね。入り込む隙間がない、なんてことは最初から魔法使いが協力していない限りはそうそう出来ません。そして、魔法使いが協力しているならしているで、その魔法使いの為にあえて穴となる場所を作る訳ですからね」
――なんだ、なら断魔石による魔法対策もあまり意味がないという事じゃないか。
なんだか彼らに無駄に抗うのさえ馬鹿馬鹿しくなってくる。セイネリアではないが、エーリジャも魔法使いの事が嫌いになりそうだった。厳密にいえば『嫌い』という言葉は少し違うが……出来るだけ関わりたくないと思っているのは確かだ。
「だらだら説明とかいいからよ、ンで中へいけそうかどうか、それだけ教えてくれねぇかな?」
深く考えるのを最初から放棄したらしいエルがそう言えば、魔法使いはにこりと笑う。その笑みにも嘘臭さを感じるのをエーリジャは押さえられない。
「そうですね、どこかに抜けられるところは必ずある筈なんですが……探すには少し時間が掛かります」
「なんだ、すぐわかる訳じゃないのかよ」
「はい、知っていればすぐですが、知らないなら探す必要があります。ですが、大抵ガードは建物の表面だけで、一度建物の中に入ってしまえば中での移動は対策されていないと考えて良いと思います」
それは確かに分かるとエーリジャも思う。館の主からすれば、とにかく外から来る者をブロック出来ればそれでいいのだろうから。
「……なので、魔法を使わず、敷地内まではどうにか侵入しましょう」
魔法使いのその気楽な発言に、エルとエーリジャは二人して顔をひきつらせた。
次回はセイネリアサイドのお話。
ここからは合流まで、それぞれのサイドのお話が交互にくる……かな。




