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黒の主  作者: 沙々音 凛
第八章:冒険者の章六
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40・兵士達2

 彼らがあまり必死にこちらに向かって走ってこないのは、やはり操られているだけで感情が伴っていないからか、もしくは思考力が奪われているせいか。理由は何であれ、それを分かっていれば利用しない手はない。こうして彼らが集まり切った段階で一度逃げれば息をつく余裕が作れるし、一度敵を分散させることも出来る。雑魚とはいえ数が居すぎれば流石にセイネリアでも体力配分を考えずにはいられない。どうせこれで『終わり』とは思えない分、出来るだけ楽にこいつらを片付ける方法を考える必要があった。ただし、光石を投げて一気に……というのは、一斉に彼らにまた別にへんなスイッチが入ってしまった場合と、ちゃんと勝負しなかった事で魔女の機嫌を損ねる場合を考えて止めた。


 一度敵を振り切った隙に、セイネリアは鞘を腰から外す。それからすぐに剣を鞘に入れて、鞘についている金具を十字鍔に掛けて抜けないようにロックする。これで剣でも殴れるようになった。

 そうして、真っ先に追い付いてきた二人はすぐに剣で殴り倒した。

 一度分散させた事で一度に襲い掛かってくる人数が減った事もあって、テンポ良くその次の二人もあっさりと倒す。囲まれそうになったら一度走って、そこでまた先行してきた三人を倒す、囲まれてきたら突破してまた仕切り直す。

 それを更に二度繰り返せば大方の敵は地面に転がり、残りは二人だけとなった。ここまで来て最後にやってくるだけあってその二人は太っていて動きが鈍く、一応走っているらしい速度はやたらと遅い。

 ただ持っている剣がどちらもかなりの大剣で、それを二人してぶんぶんと振り回してくるから懐に入りにくいのは厄介だった。


――まったく、殺せれば楽なのにな。


 この手の連中は相打ち狙いだと効率がいい。だが、殺さないようにとなればその手は使えない。大剣を振りまわして近づいてくる二人を、セイネリアは避けながら少しづつ後ろへ下がって誘う。追ってくる二人との距離を測りながら後ろを確認し、ある地点で足を止めた。

 追い詰めたと思った男は高い位置から剣を振り下ろす。セイネリアはそれを剣で受け、そのまま無理矢理払って弾く。そこで一歩大きくさがれば、とどめとばかりにより派手に大きく振り上げられた剣がセイネリアを襲う。

 だが男の剣がセイネリアの体をとらえる事はない。セイネリアに振り下ろされた筈の剣はその背後にあった壁を叩いていた。

 高い金属音が鳴って、何か小さなものが光って飛んでいく。

 どうやら壁はかなり固い材質だったらしく、剣は折れまではしなくても欠けたらしい。剣から伝わる衝撃も相当だったようで、男の体は叩いたその体勢のままで止まる。おかげで男の懐へ楽に入れたセイネリアは力を込めて男の足を払って転がした――丁度もう一人の男がいる方向へと倒れるように。

 予定通り、重なるように倒れてそのまま動かなくなった二人を見下ろすと、セイネリアは剣を鞘毎腰に戻してからロックしていた金具を外した。


――これで力試しは終わり、ではないんだろうな。


 考えながら倒れた男を暫く見ていたセイネリアは、そこで一つ気が付いた事に足を止めた。最後に転がした男は倒れた拍子にヘルムが転がってその顔が露わになっていたのだが、その額、右目の上に当たる髪の生え際に黒い猫のシルエットのような模様が見えたのだ。


「刺青、か」


 セイネリアは男の傍にしゃがみこみ、近くでそれをよく見てみる。

 この国では刺青自体は珍しいものではない。魔法使いはよくしているし、例えばアッテラ信徒は全員アッテラの印の刺青を体のどこかにする――というように、三十月神教の各神殿で信徒達に洗礼の証としてその神の印の刺青をするところは多い。勿論勝手に自分の紋章をでっちあげたり、好きな文字を刺青している冒険者もいる。

 ただおかしいと言えるとすれば、ごつい体に合わず随分と可愛い刺青だという事くらいで……何か引っかかるものを感じて、セイネリアは記憶を辿った。


 そうして、その模様――猫の形の刺青を他に見ていたのを思い出した。


 あの、魔女と思われる女の腕だ。他にもいろいろな絵や文字の刺青があったからあまり模様自体を気にしていなかったが……確かにこれと同じようなモノが、上腕の辺りにあったと思う。


ここで一旦戦闘シーンは終わり。

次回の途中からエル達の方の話に切り替え。


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