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黒の主  作者: 沙々音 凛
第八章:冒険者の章六
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31・ようこそ

 落ちた、と思った瞬間、自分に抱き着いていた女は言った――ようこそ、と。

 それにぞくりとしたものの女はすぐに離れて行って、落ちる衝撃に構えたところで逆にふわりと何か柔らかく受け止められた感じがして――落下が止まった。


 まわり全てが暗闇の何もない空間でカリンは起き上がった。


「ここは?」


 勿論崖の下ではない。他に落ちた者の気配はなく、当然先に落ちた筈のレンファンはいない。なら後考えられるのはここが死後の世界かという事だが、それはこうして自分の体に触れてちゃんと感触が分かる段階で違うだろう。

 となれば答えは一つしかない。落ちた途端、魔法使いにどこかへ転送された。それだけの話だ。


 ここにこのまま放置される――という恐怖はなかった。


 ここが何処かは分からない。辺りには何の気配もない。試しに手探りで周囲を確かめたが壁に触れられる事はなかった。床は冷たくなく、寒いと感じないところからしてここが一般的などこかの建物の空き部屋とは考えにくい。何かしらの魔法で守られていて寒くないのかもしれないが……なりより不自然なのはあまりに音がなさすぎた。広い場所のようなのに声を出しても反響が殆どない。だからおそらく、この空間自体が魔法使いが作ったものなのかもしれないとカリンは思っていた。いつもならまず逃げ道を探すところだが、ここが魔法で作られた空間ならそれは無駄に終わる可能性が高い。


 だからカリンはただ待っていた。


 ようこそ、と言っていたのなら、わざわざ自分をここへ連れてきた、つまりこちらに何か用があるという事になる。であれば餓死する前には向うから何らかの接触をしてくると見て間違いない。敵が暗示をかける魔法使いという事であれば、こうしてここに放置する事でカリンの精神を疲弊させるのが目的ともとれた。


 別に暗闇は怖くない。


 ボーセリングの犬として育てられたカリンは、暗闇に一人なんてシチュエーションには慣れている。それどころかこのまま放置されて死ぬ事だって怖くはない。ただ……ボーセリングの犬だった頃と違うのは、怖くはないが生きたいと思っている事だ。生きて主であるあの男のもとに戻りたいと思っている事だった。

 おそらくあの男は、こちらを見つける為に出来るだけの事はしているだろう。

 その為に自分が出来る事で一番重要なのは正気を保つ事で、その次は時間稼ぎだろう。もし相手が現れれば他の手も考えられるが、今はただ自分を保っている事だけが重要だった。





 魔法使いの杖が地面に線を引いていく。飛び降りた連中が集まって順番を待っていた場所をぐるりと輪で囲むように。

 そうして輪が完成すると、魔法使いが杖の先端を輪の中に向けて何かを唱えた。

 輪の中がキラキラと光を纏う。けれどそれはすぐにはじけ飛んで、魔法使いは閉じていた目を開いた。


「えぇ、やはり術士本人がいたようです」


 この場に残留している魔力を読み取れると言っていた魔法使いがそう告げれば、セイネリアの横にいた魔法使いフロスは、そうですか、と呟いた後考え込んで無言になった。


 セイネリアが周囲を見れば、あちこちで魔法使い達が後始末や調査をしている。いくらこちらとしては正当防衛だと言っても、これだけの大騒ぎを起こしたのだから一冒険者であるセイネリア達がお咎めなしで丸く収めるなんて事が出来る筈がない。特に警備隊の連中をぶっ倒したのは問題になる。魔法ギルドの連中は直接王と繋がっていて政府側と密接な関係にあるから、かなり強引な手を使ってでもこの件をなかった事にしてくれる筈だった。折角苦労して殺さないでおいたのだから、そうしてもらわなくては困るのだが。


 あの後フロスが魔法ギルドに連絡を取れば、すぐに複数人の魔法使いがやってきて暗示を掛けられていた連中を全員さっさと連れて行った。彼らは魔法ギルド側で『処置』してから解放するそうだが、その処置内容まではあえて聞いていない。予想がつくというのもあるが、聞けば必ず不快になるのは分かっていたし、それで揉めて次の手が遅れるのは望んでいないからだ。


とりあえずカリンは無事ですよ、と。

次回は魔法使い達とセイネリアの会話。

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