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黒の主  作者: 沙々音 凛
第八章:冒険者の章六
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29・操られる者達4

 それでも鎖が剣に絡まり切ってしまえば後はもう恐れる必要はない。向うは鎖を引いてきたが、それ以上の力でセイネリアが引けばいいだけだ。

 ただこの手の武器を使うだけあって相手の力はそれなりに強く、剣で引くのでは手間取るのは分かっていた。だからいっそ剣から手を離し、鎖を直接持って一気に引っ張る。

 それにはさすがに男の体勢が崩れる。その隙にセイネリアは男の懐へと走り込むと、こちらに向かって倒れ掛かった体勢の男の股間を蹴り上げた。


「が……ぐぁ」


 苦悶の声と共に男の膝が地面に落ちる。

 顔を青くして股間を押さえ、そのまま地面に転がった男を見て、セイネリアは今度はランプを持っている魔法使いらしき人物に向かって走った。だが、そこへたどり着く前に――崖の下からこちらに向けて何かが投げられたのを見て、咄嗟に腕で目を覆った。

 辺りが急に明るくなる。

 おそらくリパの光石だろうその光は粗悪品なのか光自体はすぐに消えた。……ただし、目を覆っていた腕を下ろしたセイネリアは、再び何かが飛んでくるのを見て急いで腕でまた目を覆う。だが今度は少しだけタイミングが遅れた。


「――ッ」


 仕方なく足を止め、目を閉じる。視界に頼らず、感覚だけで周囲を探る。だが、周囲で何かが動く気配はない。こちらに近づいてくる者はいない。

 そうして、ただ気配を探るだけの時間が過ぎ、やっと光の残像が収まって多少目が見えるようになったところで腕を下して目を開けば……セイネリアの視界に映ったのは、周りで飛び降りる順番を待っていた連中は勿論、目指していた人物――ランプを持っていた魔法使いさえもがその場に倒れている光景だった。

 セイネリアは舌打ちする。しかも、倒れている魔法使いに近づいていけばフードが外れて見えたその姿はどうみても10かそこらの少女で、どうやら椅子の上に立ってそれらしく見せていただけらしいというのも分かった。


「……お前が撃たなかったのは見えたからか」


 近づいてきた連中に言えば、エーリジャが答えた。


「うん。……申し訳ない。ランプだけ落とせれば良かったんだけど」


 それは角度的に難しかったのだろうとセイネリアにはすぐ理解出来た。

 セイネリアは二発目を見てしまったが、どうやら他の連中は二回の光を見ずに済んだらしく、まだ目の残像に顔を顰めているセイネリアと違って彼らに何等かのダメージがあった様子はなかった。


「私が言ったからですよ、あれは魔法使いではないと。そこに転がっている杖も、ただ見た目それっぽくしているだけのニセモノです」


 ただでさえ子供というだけで慎重になるエーリジャに、それが魔法使いではないと言えば腕を射抜いてランプを落とすという選択も取れなかったのは分かる。

 それを責める気はない。責めるのなら、この状況を予想出来なかった自分の愚かさだ。


「このガキも暗示で操られていた側か」

「おそらく、そうかと。あと襲ってきたのはもしかしたら前回、光石で暗示を解いたことを逆に利用されたのか……いやでも、暗示を複数掛けておいて、その中に光をトリガーにしたものがあったとも……」


 魔法使いであるフロスもこの状況に少し気が動転しているようだった。らしくなく表情に焦りが見える。


「つまり、こちらが娼婦を追ってここへ来るのも想定されていた可能性がある、という事か」

「かもしれません。我々がおびき出された可能性はあります……ね」


 だがその会話にエルが入ってくる。どうやら彼も無事相手を倒せたらしい。


「だー、ンな事だらだら話してる場合じゃねーだろっ。とにかくまずはとっとと下行かねーとならねーだろがっ」


 それは本当に彼らが落ちて自殺をしていたのなら――だが、そうではない事はセイネリアには予想がついていた。


「落ち着けエル、おそらく下に行っても死体は一つも転がっていない」

「……どうしてそう言える?」

「悲鳴一つ、落ちた音一つ聞こえなかったろ」


 それでエルの表情から目に見えて力が抜けた。


「確かに……そういや聞こえなかったな」

「あぁ……うん、俺も聞いてない」


 同じく硬い表情をしていたエーリジャもそれで少しだけほっと表情を崩す。彼はエルのように騒いではいなかったが、先ほどのセイネリアと魔法使いの会話を聞いている間に相当に青くなっていて、おそらく焦って光の矢を放った事に責任を感じているのだろうと思われた。


次回は残った皆でもうちょっと話し合ってこのシーンは終わりとなります。

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