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黒の主  作者: 沙々音 凛
第七章:冒険者の章五
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46・確かなもの

この話でこの章は終わりです。

 ともかく、後々を考えてやれる事はやった以上、これで文句はないだろうとセイネリアとしては思うところだ。一つだけ問題は残ってはいるが、そこはアジェリアンが選ぶ事でこちらがどうこういう問題ではない。それこそヤボというものだろう。


 ただ、セイネリア個人としては少し面倒な問題が出来てしまっていた。


「セイネリア殿っ」


 やたら嬉しそうにやってきた砦兵の騎士を見て、セイネリアは僅かに顔を顰めた。


「約束ですよ、あの槍を使ってみせてください、皆待ってます」


 彼らから逃げる意味もあって一人で飲んでいたのに、結局皆と飲む事になってしまった所為であの後やってきた彼らに捕まりセイネリアは槍を使って見せる約束をさせられてしまった。何せ槍自体はこちらに帰ってきてから呼んだついでに砦に置かせてもらっている分、そして首都に帰るまでは暫く置かせて貰うつもりもあるから、多少は向うの言う事を聞いておくべきかと思ったのもある。まぁ一番大きかったのは、それを約束しないと延々と話をさせられそうだったのもあるが、なんだかやたらとここの兵に気に入られてしまってセイネリアとしては困るしかない。


 ちなみに面倒事はそれだけではなく、あの首都からきた女騎士のエレステアもあの宴会の最中にセイネリアを探してやってきた。どうやら彼女もあの蛮族達に隔離された連中の中にいたらしく、約束通り守ってくれてありがとうとくっついてきてはフォロとヴィッチェに文句を言われ、彼女があの中にいたのを知らなかったと正直に言ってもやはり二人に口で散々あれこれ言われた。

 別に何を言われるのも構わないが、いくら酒の席でも周りで騒がれ過ぎて流石に面倒でセイネリアとしてはかなりうんざりした。


「……分かった、少しだけ出てくる」

「はいはい、いってらっしゃい」


 まだちょっと落ち込んでいるらしいエーリジャに告げて、セイネリアは笑顔の騎士について歩きだす。まだ騎士になったばかりらしい若い騎士(それでも確実にセイネリアよりは年上だろう)は、歩きながら案内をしつつ、その途中で嬉しそうに言ってきた。


「セイネリア殿は騎士試験をいつ受けるのですか? きっと貴方なら楽勝でしょう、騎士になったらぜひこのバージステ砦の配属を希望して下さい。きっとジェン様も推薦してくださる筈ですから」


――騎士試験か、さて、どうするか。


 一応なるつもりはあるが、実のところもし騎士になって騎士団に入る事になったとしてもこの砦にくる事はないだろうとセイネリアは考えている。

 確かに騎士として出世して……そういう道を選ぶのなら、この砦へ来るのが一番いいのは分かっている。やりがいや名声といった普通の冒険者が夢見るモノもここでなら手に入れる事が出来るだろう。だがその先にあるのはナスロウ卿と同じような失意だけだ、それはセイネリアの望むものではない。


――言った筈だジジイ、俺はあんたになる気はない。


 養子になって自分の地位を継げと言った、黒の一番だけで満足できなかった男の顔を思い出す。自分の人生に彼が大きく関わったのは否定しないが、だからといってそれに従って流されようなどとは思わない。地位と名誉を手に入れた代わりに失意で過ごした男はセイネリアの目指すモノとは逆であって、彼の人生を辿ろうなんて思う筈がなかった。


 地位も名誉も欲しくはない、だがこの空っぽの心を満たす何かが欲しい。自分が生きていると実感できるその感覚が欲しい、自分に生きる意味があるのだとそう実感できる確かなモノが欲しい。その為に何を選ぶべきか――セイネリアは考えて、せわしなく動き回る者達で活気がある砦の様子を一通り見まわすと、ふいに手を前にかざして強く握りしめた。


――今はまだ、握りしめたこの力の感触程度しか確かに感じるものはない。


そんな訳で戦場編が終わりました。

次回から魔法ギルドからの依頼編。魔法使いの秘密がもう少し明かされる話になるかと。

固定メンツ+魔法使い+クーア女神官でお仕事予定。

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