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黒の主  作者: 沙々音 凛
第七章:冒険者の章五
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45・楽しい道化

 翌日は天気もよく、今朝は朝食を早めに済ませて引き上げ準備と後片けを急いで行う事になっていた。遅くまで飲んであまり寝ていない者もいたが、この手の仕事に来ているだけあってそこは皆体力があるところで、自信がないものはそもそも昨夜もさっさと寝ていて問題ない筈であった。


「おはよー」

「おは……ぶっ」


 エーリジャが皆に声を掛ければ、とりあえず返した後に笑うか吹き出す。それに不思議な顔をする彼を眺めながら、火起こしが終わったセイネリアは彼の傍に行った。


「えーと……昨日は何かあった、のかな?」


 引きつった笑みで聞いてきた赤毛の狩人に、セイネリアは軽く答えた。


「何、丸く収める為に、あんたにも少し協力してもらっただけだ」

「えーと……」


 彼の笑みは益々引きつる。


「昨夜の記憶はあるか?」

「あははははは……いやだって、特別報酬のいい酒だって言われたら……ね」

「それは当然飲むだろうな、だからエルに渡したんだ」

「え?」


 エーリジャが口を開けたまま黙る。

 気のいい男の本気で焦ったらしい表情を、セイネリアは鼻で笑った。


「安心しろ、『頼れる優しいおじさん』のイメージは別に崩れていない。ただ『酔わせると面倒な面白おじさん』というイメージもついただけだ」

「いやそれつまり……君、図ってくれたってことかな?」

「まぁな、俺だけに押し付けてくれたから、あんたにも強制的に協力してもらっただけだ。だが結局飲んで醜態をさらしたのは我慢しなかったあんたの責任だろ」


 実はヴィッチェのところへ行く前、セイネリアは見つけたエルに酒を渡してエーリジャを飲ませて酔っ払ったら皆のところへ連れてこいと言っておいたのだ。奴が酔っ払ったところを見たいんだろ、と言えばエルははりきって任せろと去っていった。宴会好きの彼に飲ませないようにしろというのは難しいが、調子に乗せて飲ませてやれというのは彼の得意なところである。


「……えーと、いや醜態って、何があったのかちゃんと聞きたいとこなんだけど、な……」


 もう笑みが引きつり過ぎて笑みになっていない顔のエーリジャに、セイネリアはやはり軽い声で言ってやる。


「皆を笑顔にする楽しい道化を演じて貰っただけだ」

「いや道化って、もうちょっと具体的に……」


 そこへエルがやってきて、セイネリアとエーリジャの顔を見ると吹き出した。


「おー、おはよー……ぶはっ」


 そうして腹を抱えて笑い出すエルに、エーリジャの顔から冷や汗が落ちる。


「これが嫌なら今度こそ酒は控える事だな」

「……あぁ、そうだね……」


 そうしてくれなくては困る、と心で呟きながらセイネリアも楽しい気分にはなれずに口をへの字に曲げた。なにせこちらも笑われている上にいろいろ面倒事があった分、ただザマアミロと言える結果ではない。


 とはいえ、拗れたヴィッチェ周りの問題はあれであっさり終わりとなった。なにせ女といえばあの手の場合、泣くか叫ぶか好きなだけ吐き出させてしまえば割合落ち着くものである。皆で大笑いをした後はすっかり重い空気も吹き飛んで、普通に今回の戦いでのあれこれを言い合いながら笑って宴会らしく飲む事が出来た。

 ヴィッチェとフォロは嘘のようにけろっと二人で笑い合っていたが、セイネリアの経験上それは女の場合珍しい事ではない。アジェリアンは多少きつねにつつまれたような顔で首を傾げていたが、ともかく良かったありがとうとセイネリアに後で礼をしてきて、彼も彼でヴィッチェにあの後何かを言いにいったらしい。

 その後ヴィッチェがやたら気合いを入れて、アジェリアンのために酒やら食事を運んでいたところからして、何を言ったのかは大体想像はつくが。


この章は後一話で終わりかな。


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