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黒の主  作者: 沙々音 凛
第七章:冒険者の章五
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43・ごめんなさい

「でも……フォロが……彼女は私を許さない」


 下を向いたままのヴィッチェの声は暗い。

 実際、彼女がここまで落ち込んだのはフォロが原因ではあった。カリンもフォロとヴィッチェがあれからずっと口を利かないで互いに目を合わせないようにしていたのは知っていた。それが今回、どうにかカリンが宥めて天幕から連れ出して皆のところへヴィッチェを連れていった時、フォロが『ヴィッチェがいるなら私は別の場所に行きます』とどこかへ行こうとしてしまって、アジェリアンがそれを追いかけて宥めて……という事態になってしまったのだ。そこでヴィッチェが『なら私がここにいなければいいんでしょ』と言って、だがそれをアジェリアンがまた宥めて……結果、かろうじて姿が見えるここにいた、という経緯があった。


「ならお前は、彼女にちゃんと謝ったか? アジェリアンに謝ったか? 言っておくがあの場で泣きながら言ってた奴はちゃんと謝ったには入らないぞ。頭が冷えてから彼らに向かって改めて謝るべきだ。勝手に自分で自分の罪を決めつけず、迷惑をかけたと思う相手から断罪してもらえ」


 セイネリアの声に、ヴィッチェはまた顔を上げる、ただセイネリアの顔は見ない。

 彼の低い声に、僅かに苛立ちが入る。


「お前の行動はただ時間を無駄にしているだけだ。自分も相手も気まずい時間を過ごしているだけで物事が何も解決していない。せめて悩んで座り込んでるくらいなら体でも鍛えてろ。まったくお前の行動全てが時間の無駄だ」


 その理論はあまりにもこの男らしくて、カリンは思わず笑いそうになる。

 ヴィッチェもその言い方にはあっけにとられて、思わず目を見開いてセイネリアを見上げていた。


「……なんていうか、ホント、あんたって酷い男ね」


 暫くして呟いてから、ヴィッチェは自嘲気味に笑った。それを見て黒い長身がくるりと背を向けた。


「いくぞ」

「どこへ、でしょう?」


 思わずそう声を返してしまったのはカリンだった。


「アジェリアン達のところへだ。カリン、お前はその女を無理矢理にでも引きずってこい」


 その命令にはさすがに困って即答が出来なかったカリンだが、ヴィッチェが自ら立ち上がってカリンの肩を叩いてくれたから、カリンは正直ほっとした。


「大丈夫、行くわよ。ホント嫌味な男」


 セイネリアが歩きだす。ヴィッチェはそれに一歩踏み出したが、そこで躊躇しているように見えたからカリンは彼女の手を握った。ヴィッチェが笑いかけてくる。


「ありがとう」


 彼女はしっかりカリンの手を握り返すと、黒い男の背を追いかけて歩き出した。






 酒が入った連中は陽気になり、辺りは歌と笑いの大合唱で皆楽しそうにやっている。そんな中アジェリアンの周りは……一応飲んではいるものの会話は少なく、どうにも沈んでいて気まずい空気が流れていた。なにせ今回こちらのパーティへは多くの者が声を掛けにきたのに、それが皆場の雰囲気を読んで早々に逃げていってしまうくらい、明らかにここだけが勝利を祝う宴らしからぬ状況になっていた。


 そこへセイネリアがやってくれば、まず最初にそれに気付いて声を掛けてきたのはアジェリアンだった。


「なんだセイネリア、どこにいたんだ。貴様を訪ねて何人も……」


 だが彼の声は、その後ろから前に出て来たヴィッチェの姿を見て止まる。

 どうしようかと戸惑いに曇った彼の顔は、だがすぐに笑顔に切り替わる。


「良かった、ヴィッチェ、心配してたぞ」


 彼が言えばフォロ以外の人間も笑みを浮かべる。リパの女神官だけはわざと見ないでいる中、ヴィッチェが前に出てアジェリアンに頭を下げた。


「今回は、ごめんなさい」


 それでフォロも彼女の方をちらと見る。


「全部私が勝手な行動をしたのが悪かったの。私が大人しく言われた役目だけをしていればアジェリアンも怪我しなかった、皆私が悪いの。ごめんなさい、皆にも心配をかけて……謝って済む事じゃないって分かっているけど、ごめんなさい」


次回は女同士の言い合い……ですが。まぁこの件が一応解決します。


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