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黒の主  作者: 沙々音 凛
第一章:始まりの街と森の章
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23・当たりだな

「どうやら俺のせいというのも多少はあるらしいしな」


 そう、独りごちてセイネリアは街の中を走る。


 あの後、ノックの主にアガネルは一人で会いにいき、そのまま彼は連中に連れていかれた。

 彼を迎えに来た男は二人。

 その二人を見て、リレッタが連れて行かれた理由は大体が理解出来た。

 男の内一人はローレスティカという例の昔の仲間だった男らしく、家の外でアガネルの名を呼んだのもこの男だった。この男の外見が、目つきだけは悪いもののかなりのちびで強そうには全く見えなくて、あれならリレッタが自分でもどうにか出来ると思って出て行ったというのが容易に予想出来た。

 そしてもう一人、そのローレスティカが連れていた男はクーア神殿の神官だった。

 クーア神は予言と千里眼の神で、神官は予言もだが、特に転送術と千里眼の術を使える事で知られている。つまり、森を迷わなかったのは最初からクーア神官が家の場所を千里眼で探していたからであり、争った形跡がなかったのは転送術であっさり連れて行ってしまったからだ。

 分かれば馬鹿馬鹿しい程単純な話だが、結局はそうなるとリレッタが隠れなかったのが一番の問題になる。

 となれば、自分にも責任がないとは言えない。

 まぁ、積もった借りを返済しておくいい機会かと、セイネリアは走りながら苦笑した。


 いつでも森の中を二人で歩いているセイネリアとアガネルは、互いに相手の位置を知らせて光る魔法の石を持っていた。子供の拳程の大きさの平べったい石だが、対になる石のいる方向が僅かに光るというアイテムだ。

 化け鳥の時のように一人が囮となって大物をしとめたりする事は珍しくない為、これで互いの位置が離れ過ぎた時も合流する事が出来る。そこまで強力なアイテムではないから距離が離れすぎると反応しないが、転送術で飛べる程度の距離なら問題はない。


『おまえの娘はちゃんと元気で仲間のとこにいるよ。大丈夫だ、ヘンな手ぇだしちゃいねぇよ。俺ぁお前に頼みがあんだよ、それ聞いてくれたらすぐに返してやる』


 そういって迎えにきた男は、一緒に連れていたクーア神官の転送術でアガネルを連れていった。おそらくそこにリレッタもいる、そう思ったからセイネリアはアガネルを追った。娘という人質さえどうにか出来れば、後は放って置いてもアガネルはどうにでも出来るだろう。


 彼らのいる場所は街の中、それもセイネリアが土地勘のある裏街の南の区画方面のようで、そうなれば大体どんな場所にいるのかの予想もつく。

 裏街を抜けて、かつて慣れ親しんだ道が見えてくると、セイネリアは走るのをやめて石をじっと見ながら歩きだした。

 石は近い事を示すように同じ場所を少し強い光で示している。けれどもセイネリアがある建物を過ぎようとすると、石が示す方向が変わった。

 だからここにアガネルがいる。

 セイネリアは石を懐に仕舞って建物を見上げた。

 そこは古ぼけた建物で、かつてはそこもあたりに居並ぶ娼館の一つだった。だが大分前に経営者が死んでからは店はつぶれて、今はただの廃墟になっている。……まさに、そういう連中がいるにはおあつらえむきの場所というところだろう。

 閉鎖されているから窓は板でふさがれていて、中に人がいたとしても明かりが漏れないのがやっかいだった。それ以前に入り口も板で止めてあるので、一見すると中に入る事は不可能に見える。

 ……だが、それに関してはセイネリアは知っている事がある。

 元々この廃墟は泊まるところもないごろつきや犯罪者などの胡散臭い連中がよく入り込んでいて、命が惜しかったら近づくなと言われていた場所でもあった。実際にセイネリアがこの中に入った事はないものの、誰かが入っていくのを見たことは何度かある。

 セイネリアは迷うことなく建物の裏手に回り込み、密集した建物と建物の間、壁同士の人一人分の隙間の中にあるその建物の板のはがれた窓へと向かう。

 幸いな事に、見張りのようなものはいない。

 窓をのぞいてみてもただ真っ暗で、入ってすぐの場所に誰かがいる気配はない。試しにもう一度石を取り出してみれば、確かに石は建物の中を指していて、セイネリアは思い切って窓から建物へと侵入した。

 弱くはあるが、石の放つ光が丁度よく目立ちすぎない程度の明かりとなり、真っ暗な建物の中を歩くセイネリアを助ける。

 古ぼけた建物は床の木も腐り掛けているらしく、ギィギィと不快な音を立てるのは仕方ない。けれども思いの外床が散らかっていないのは、おそらくここを何度も人が通っているせいだろう。

 慎重に、出来るだけ音を立てないように歩きながら、セイネリアは二階への階段を見つけ、あがってみる事にする。

 そうすればすぐ、並ぶ部屋の一つから明かりが漏れているのが見えた。

 セイネリアは更に慎重に近づいていくと、その部屋の扉の隙間から中を覗いた。


――当たりだな。


 部屋の中に見えたのは、椅子に縛られているリレッタ。ぐったりとしている彼女はだが乱暴をされた訳ではなく、服もちゃんと着てはいる。

 どうやら奴らもアガネルの怒りを買いたくはなかったと見える、とセイネリアは唇を皮肉気に歪めたが、状況についてはあまり良くはないと判断するしかなかった。

 まず、部屋の中にいる男は三人。

 アガネルを迎えにやってきた二人はその中にはおらず、全員が傭兵くずれといった戦士系の人間だ。どれくらい腕がたつのかは予想が出来ないが、狭い部屋で一人で三人を相手にするのはどう考えても勝算が薄い。

 セイネリアはそこで少しだけ考える。

 今、セイネリアが手に持っているのはあの大斧。

 行くなら何か武器がほしいと思い、選んで持ってきたのがそれだった。



次回はちと残酷表現があります。

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