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黒の主  作者: 沙々音 凛
第七章:冒険者の章五
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22・色布

このあたりのポカはセイネリアもまだ若造って事で。

 戦いは既に収束に向かっていた。

 蛮族達は逃げる者は大方逃げた後で、今でも戦っているものは物陰に隠れていたか、地面に穴を掘って待ち受けていた連中くらいだ。それらを虐殺して回っている兵士達は主に首都からの無能兵士の方が多く、逃げて行った連中を追いかけていったのも首都からきた連中ばかりだ。砦兵と思われる者達は敵を深追いせずに各隊毎に集まっていて、なにやら話し合っているようにも見えた。

 そんな中セイネリアも、この戦場の風景を見て何か嫌なものを感じていた。


「カリン、少し周囲を見てきてくれ。何かおかしい事や引っかかったことがあればとりあえず知らせろ。怪しい奴らがいても深追いはしなくていい、見て来た様子だけ伝えろ。エルはカリンに強化を入れてくれ」


 自分の後ろにずっとついていた彼女も、今日はあまり戦闘らしい戦闘はしていないから余力はある筈だった。

 だが、すぐに了承の返事をして術を使おうしたエルを止めて、カリンはセイネリアの前に出てきた。


「そのまえに、一つ、気付いたことがあるのですが」

「なんだ、言ってみろ」

「森で見かけた彼らは、部隊毎に腕に色分けされた布を巻いていました。その色は確か4色で……」


 そこまで言えば、セイネリアもすぐに彼女がいおうとしていることを理解する。確かに彼女から報告を聞いていた筈なのに、すぐそれに思い至らなかった自分の無能さに思わず舌打ちした。


「そうだ、黒を……見なかったな」

「はい、私も途中から注意してみましたが、死体でも見つけられませんでした」


 彼女の報告で聞いていた、敵は服装や旗から同じ部族だとは思えるが、腕に赤、青、黄、それに黒の布をつけた4部隊に分かれていたと。突撃時に敵の数300以上という声が聞こえたから数が合う分深く考えなかったというのもあるが、槍騎兵隊に注目しすぎてそちらに注意するのが頭から抜けていたらしい。


「黒なら暗がりで見落としたって事もあるんじゃ?」


 確かに周囲はかなり暗くなってきている、エルのいう可能性もゼロではない。


「なら逆に、色布を腕につけていないよう見えた奴がいたか?」

「あー……いや、そうだな、見た覚えはねぇ」

「俺もない、つまりそういう事だ」

「はい、少なくとも私と主が見ていないとなれば、最初からいなかったと考えられるのではないでしょうか」

「おいっ、俺は別かよっ」


 つっかかってくるエルを無視して、セイネリアは視線を周囲に向ける。


「俺もカリンの意見に同意だ……おい、アジェリアンっ、どこにいるっ」


 セイネリアはとりあえず隊のリーダーである男を呼んで探すことにした。上に報告するにしても、こちらのリーダーである彼を通すのが決まりである。見てすぐ分かる程の緊急事態でない限りは、規則を守らないと相手にされない可能性が高い。


「どうした……何かあったか?」


 何度か名前を呼んで歩けば、少し息を切らしたアジェリアンがデルガを連れて近づいてきた。手に持つ彼の剣の具合からみて、彼もあまり積極的に敵の相手をしていなかったと思われた。


「もしかしたら敵の一部隊だけ、別行動をとっているかもしれない」

「どういう事だ」

「森でカリンが見かけた時、連中は腕の布で4色、4部隊に分かれていた」

「4色……?」


 アジェリアンは考える、自分が見た色の数えているのかもしれない。


「黒い布を腕に巻いた連中がいない」


 だがセイネリアがそう言えば、兜から覗くアジェリアンの目の色が変わった。


「すぐ報告に行くべきだな」

「あぁ、少なくとも兵に深追いをしないで集まるようにすぐに号令をかけた方がいい」

「……だな、行ってくる」


 言うと彼はすぐに背を向け、デルガについてくるように言って走り出した。

 考えれば、セイネリアが感じていた違和感の正体は簡単だ、逃げている蛮族達が多すぎたのだ。蛮族達は基本的にそう簡単には逃げない、そうは聞いていたが本能的な恐怖に逃げてしまう場合は仕方ない、逃げる者もいるだろうと――勝手にそう理論づけてしまった自分の馬鹿さ加減を罵る。


「主、では私は周囲を見てきます」

「いや、その命令は撤回だ、俺の傍から離れるな」

「主?」


 行こうとしていたカリンはそこで振り返った。術を掛けようと長棒を腰に刺したエルもこちらを見ていた。

 セイネリアは戦場を見渡して舌打ちをした。

 気づいたのが遅かったせいか、既にかなりのクリュース兵が敵を深追いしてかなり遠くまで行ってしまっている。しかも蛮族達はバラバラに逃げ惑っているように見えて割合同じ方向に逃げていた。ここから一番近い森へと、まるで誘導するように。


 そこで、戦闘停止、もしくは撤退を告げる風笛が鳴り出すのと、馬の高いいななきが聞こえたのはほぼ同時の事だった。


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