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黒の主  作者: 沙々音 凛
第七章:冒険者の章五
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21・戦闘開始3

――あれが整然と並んでぶち込まれる訳だからな、相手としてはどうしようもない。最前線にいた連中には同情してやってもいいくらいだ。


 とはいえ槍騎兵隊が、貴族の直系の跡取りが危険だからとなる事が禁止されている理由もセイネリアには分かっていた。

 彼らが突っ込むその時までは、彼らは防御呪文で守られている。

 だが敵にぶつかって間もなく、第二陣の突撃に合わせて第一陣の防御魔法は解除される。術者の数の問題もあるのだろうが、防御役のリパ神官たちはそこで第二陣の方に術の対象を切り替えるのだ。

 だから槍騎兵隊は突っ込んだら術が切れる前に、そのまま敵の陣をつっきってしまわなくてはならない。敵の奥深くに食い込んだまま立往生をしたら、敵にたかられて死ぬ危険が高い。味方から先行してダメージを負わせる役であるから、敵の中で孤立する危険がある。しかも防御呪文も絶対という訳でもない、まさに術者に命を預けて特攻しているというものだろう。

 ……ただ幸い、今回は敵の厚みが想定内で全員無事つっきれたようだが。


 全軍が突撃といっても、戦場に到着するのはやはり馬に乗っている連中が先になる。歩兵であるセイネリア達は先頭グループにいたとしても着くのがかなり遅れるのは仕方ない。既に槍騎兵隊が敵に壊滅的なダメージを与え、騎馬部隊が混乱する敵を蹂躙した後では、敵は負け戦状態で戦局は決まっていたと言ってよかった。こちらの仕事といえば、陣形が崩れ切って混乱している蛮族連中を殺して行くただの殲滅要員でしかない。


 蛮族達は基本的に捕虜にはならない。なぜなら彼らは降伏しないからだ。彼らが戦うのは自らの強さと勇猛さを示す為であるから、例え降伏して命が助かっても仲間からは馬鹿にされ、帰る場所はなくなる。逆に戦闘による死者は讃えられ、部族の誇りとして語られる。だから命令なく逃げる事もほぼないという事だが……人間、死が目の前に迫れば反射的に逃げてしまうのは仕方ない。それでも基本、退かず、死ぬまで戦う蛮族は兵として恐ろしい。これだけ装備や魔法といった差があっても、油断すればこちらに大きな被害を与えてくるのは、兵としての彼ら個々が強いからに他ならない。


「しかし、こらーこっちの仕事も殆どなく終わりかね」

「そうだな」


 呆れて周りを見ているエルの声にセイネリアも同意する。

 とはいえ、まだ戦闘は終わっていない。

 だが既に勝敗が決まっている戦場など面白くもなく、セイネリアは事務的にただ向かってくる蛮族だけを殺して歩く。逃げる敵を追いかけて戦果を誇るのも馬鹿馬鹿しく、積極的に戦う気は起こらなかった。蛮族達が虐殺される周囲の様子を見ながら、ため息と共に苦笑して歩き、そうして思う。


――こんな戦い方をしていれば、クリュースの兵が弱いのも当然か。


 いつもこんな状況になってから相手と剣を合わせているなら、あのやる気のない首都からの連中でもいるだけで戦力になるのは分かる。だがこうして有利な状況に慣れ過ぎた所為で、少しでも不利な状況になったら総崩れするような弱い兵だろうというのも想像出来る。命がけの仕事に慣れている傭兵達はともかく、こんなぬるい戦いばかりしていればロクな兵が育たないのは確定だろう。

 とはいえさすがに先陣を切る槍騎兵隊や、それ以外でも普段から小規模でも襲撃を受けている砦兵はマトモなのは確かである。問題はこの手の大きめの戦いしか呼ばれない首都からの派遣兵達で、腐った上の下につく腐った彼らは使えない兵士としてのまま、それでもどうにかなってしまっているというのがこの国の現状という訳だ。


――弱い者いじめに特化した兵など、いざという時使えないな。


 考えれば蛮族の兵とは正反対といったところだろう。装備と魔法による強さはあるが、中身が弱い。

 案外砦にいる実践慣れした兵達が暴動を起こして首都に押しかけたら、一気に政権をひっくり返すことも可能じゃないかとさえ思う。

 ……ただ、それはすぐに頭の中で否定される。なにせ首都、王には魔法ギルドがついているからだ。


 振り返って後衛の集まっている場所を見たセイネリアは、そこに並んで立っている杖を持った者達の姿を見て皮肉な笑みを浮かべた。


次は戦闘は決着がついて一段落、と思ったら……な展開。

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