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黒の主  作者: 沙々音 凛
第七章:冒険者の章五
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20・戦闘開始2

 こちらよりこの手の経験が多いアジェリアンでさえ緊張するのは仕方ない。

 セイネリア達がいるのは全軍の中でもかなり前の方で、歩兵部隊のほぼ先頭部隊と言ってもよかった。ちなみに配置が分かった時点でヴィッチェとネイサーの役目を入れ替えて、彼女は今、後衛部隊の守りの方にいる。勿論ヴィッチェは抗議したが、アジェリアンがリーダーとしての命令だと言えば、文句を言った後に従った。


――甘い、と言うべきか、人間らしいというべきか、だな。


 前を見据えるアジェリアンを見ながら、セイネリアは思う。

 当然カリンはこちらの背後にいて、彼女を後衛の護衛に回すなんてセイネリアは考えもしていない。カリンの能力を考えての事では勿論あるが、彼女にこういう場合の実践経験を積ませる為と、自分の傍にいるなら彼女が危険にならないようにこちらで敵をコントロールすればいいという考えがあるからだ。もし自分が死ぬような状況になったら、彼女には逃げていいと言ってある。……もっとも、カリン自身がそれを望まなければ彼女も死ぬかもしれないが、そこは本人の自由だ。


 上から風笛の音が聞こえて、一斉に上空は飛んでいく矢で幾筋もの線が引かれる。

 セイネリアの位置からまだ敵は見えないが、矢は魔法使いが起こした風に乗って視界の先まで飛んでいく。聞いていた通りこちらに敵の矢が来る事はなく、まずは一方的に有利な展開から戦いの幕が上がったというところだろう。


「第一陣、前へ」


 地上側では槍騎兵隊に次の号令が掛けられ、第一陣の騎兵が前に出た。その傍に2,3人の魔法使い、もしくは神官がついて各自騎兵に術を掛けて行く。


――成程。


 その状況になれば大体どうするのかは予想がついた。魔法役達が下がって遠くに敵の影が見えてくれば、いよいよ最後の号令が掛かって一斉に槍騎兵隊は走り出す。

 ほぼ横一列、綺麗に揃って敵に向かう騎馬の数は25。彼らが飛び出したすぐ後には次の騎兵隊が前に出て、彼らの為の術士達がその横について待機する。その数は少し減って20と言ったところか。

 整然と走る騎馬の足音が大地を揺らす。

 風は当然追い風で、舞い上がる土煙も全てが敵に向かって行く。

 クリュース軍からは声が上がる事はない。ただ馬の走る音だけが大きくなる敵の雄たけびと混ざり合い、やがて、それらはぶつかる。

 低く地面に響く衝撃音と、悲鳴に怒声。次々と敵の塊にぶつかっていく槍騎兵は、掛けられた防御の術をもって待ち受けていたろう敵達を、盾毎、あるいは構えた槍毎、弾いて文字通り吹き飛ばしていく。人間がまるでただ立てて並べた丸太のようになぎ倒されていく様は呆れるくらい圧倒的で、大きな塊としてこちらへ進んでいた敵の前線はいびつな形に歪み、槍兵が通った場所は大きくへこんで穴が開いたようにさえ見えた。


「第二陣、突撃っ」


 そこへすかさず第二陣が突っ込む。すっかり陣形が崩れた敵の中へ、第一陣があけた穴のせいで突出したカタチになってしまった被害のなかった個所へと今度はぶつかっていく。

 魔法の防御を受けた騎馬は何者にも傷つけられない。敵からすればただ大きな岩の塊が馬の全速力の速さでぶつかってきたようなものだろう。それは単純な戦法だからこそ効果的である。面白いように敵の陣形はぐちゃぐちゃに崩れて悲鳴が辺りに響き渡る。


 そこで全軍に突撃命令が下って、初めてクリュース軍からの声が上がった。走り出す周りと共に自分達も走り出す中、セイネリアは戦いの高揚に包まれる事なく――それどろか少し萎えた気分で冷静に周囲を見ていた。


――これはもう、勝敗は決まったも同然だな。


 槍騎兵隊は確かに一見の価値はあるいい見世物だった。つまるところ、やっている事はセイネリアがグノー隊長を助けた時の状態を騎馬でやっているだけの話だ。リパ神官が持続呪文で『盾』の術を掛け、追い風でスピードを上げ、馬と人間の筋力を上げて突っ込ませる。その他にも術を掛けているかもしれないが、一騎につき3人程度の術士ではそんなところだろう。どちらにしろ騎馬での突撃なら最も重要なのは『盾』の持続呪文で、それさえ掛かっていれば後は馬のスピードとその質量で凶悪な成果が出せるのは疑いない。


槍騎兵部隊の突撃……イメージはまさに人間ボウリングみたいな感じで。

そらこんなのに全身防御の魔法ってヤバイよね。

『戦闘開始』は次まで。ただ当然このまま楽勝で終わり、ではないです……。


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