6・林の戦闘2
「これで何人目だったかな」
また敵を倒してアジェリアンが言う。この状況でも彼の声には悲壮感などなく、却って明るいくらいだった。
「さぁな、こっちも数えるのを忘れてた」
言いながらセイネリアも目の前の敵の頭を剣で叩き飛ばす。こちらの剣は既に斬れるような状況ではないからただの鈍器だ。幸いなことに刃が厚めの重い剣であるからセイネリアの腕力であれば鈍器としても十分使えるし、突き刺すことならできるからそこまで問題はない。
敵は3~5人が一斉に襲ってきては、倒されたあとに暫く様子を見るというのを繰り返していた。おそらくは難敵相手に一番倒されやすい最初の攻撃役を誰がやるかけん制しあっているのだろう。こちらとしては一息付けるから有難いところであるが、そうしてまた敵が一度様子見に入ったところで、木の上から再び一人の敵が悲鳴と共に落ちてくる。それと同時に身軽な影……カリンがセイネリアの横に下りてきた。
「次の光が上がったらここを突っ切ってください。他の方たちは先に後衛部隊の方へ向かっています」
アジェリアンとセイネリアが同時に了承の返事を返す。
カリンはそのままセイネリアの横について武器を構えた。
増えたのが女だと分かった蛮族達はすぐカリンに向かってくるが、セイネリアとアジェリアンがそれぞれ横から一人づつを叩き落とし、カリンの短剣が二人の喉を裂いて殺した。それでも今回はまたすぐに敵は続けて襲ってくる。……だが、直後に左方面でまたオレンジ色の光が上がったのを見たセイネリアは、蛮族達を睨むと威嚇するように大声を上げた。
襲い掛かってきた5人の内、それに足を止めたのは3人。
残りの2人は既にこちらに飛びかかって剣を振り上げたところで、止まれなかったというのが正解だろう。
セイネリアは殊更凶悪そうに剣を大振りし、なまくらな筈のその剣で二人共の腹を力任せに薙ぎ払った。斬れなくとも潰された腹から血と臓器が周囲にばらまかれる。その返り血を派手に浴びて舌打ちをすると、セイネリアは顔についた血を拭って再び吼えた。
蛮族達の顔が恐怖に引きつり、今度こそ全員の足が止まった。
動く者がいない一瞬、張りつめた静寂が辺りを支配する。
その様を見てからセイネリアは呟いた、今度はアジェリアンとカリンに向かって。
「目を瞑ってろ」
クリュースの人間なら、その言葉が何を指しているか分からない筈はない。
言ってセイネリアが地面に光石を投げつければ、ほぼ同時にアジェリアンも光石を投げ、辺りは眩い光に包まれる。
リパの光石による目つぶし――だが蛮族達も馬鹿ではない、過去の戦闘で何度も使われたソレは警戒されている筈だった。それでも今、この状況で対応出来た者はほぼいない。光が治まった後には視界にいた蛮族達の殆どが目を押さえてのたうちまわり、少なくともこちらに飛びかかってこようとする者は見当たらなかった。
「いくぞ」
セイネリアの冷静な声の後、三人はオレンジ色の光が上がった方向に向かって走り出した。当然それを追ってくる者も周囲にはいない。
「今の凶悪さはさすがだな」
「だが血を浴び過ぎた、後が面倒だ」
アジェリアンの軽口に軽口で返し、状況の深刻さに似合わない笑い声と共に彼らはその場から無事逃げ出す事に成功した。
次のシーンは後衛部隊と合流後。




