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黒の主  作者: 沙々音 凛
第七章:冒険者の章五
212/1202

1・砦にて

ここから新章です。

 空は鉛色に曇っている。とはいえ雨にはならないそうだからそこまで心配はないだろう。なにせ雨になったら砦の兵士達はいいが、外に天幕を張っているこちらはいろいろと面倒な事になる。砦の建物内に今回の募集に集められた者達の部屋まで用意出来る筈がなく、砦兵でない騎士団の援軍と傭兵部隊は柵で囲まれた砦の敷地内に天幕を張って寝泊まりをする事になっていた。一応首都からきた騎士団のお偉いさんは建物内に部屋を用意されたらしいが、まぁこちらは屋根があるだけ好待遇といっていいくらいだろう。


――我が騎馬は光の加護を受けて突き進む。敵の武器を弾き、陣形に大穴を空け、敵は恐れおののき逃げ惑う――。


 風に運ばれて竪琴の音が聞こえてくる。続いて、それに混じる歌の声。そういえば砦内には吟遊詩人がいるんだったなと、セイネリアはその歌詞に耳を傾けた。

 それは有名なクリュース騎兵隊を讃える歌だった。クリュースの騎兵隊といえば騎士団一の精鋭部隊で、大きな戦いではいつでも先陣を切って勝敗を決めてきた。かつて建国王アルスロッツの一番信頼していた部下が率いていたというクリュースの騎兵隊は、今でも他国から恐れられてはいるが、平和ボケした今では危険だからと貴族の直系がなるのは禁止されていたりする。まったく馬鹿げた決まりだと思うが、そのおかげで騎兵隊の隊長は例外として貴族ではない平民でもなる事が出来る。平民出の騎士にとっては一番の出世コースというだけあって優秀な者がこぞって騎兵隊を志願するため精鋭ぞろいを維持できている……という事らしい。


「ここのお約束だ。俺たちへと言うより、槍騎兵隊の本人達を鼓舞するために歌ってるそうだぞ」


 天幕から出て来た男に、セイネリアは皮肉気な笑みを返した。さすがに戦場の傭兵をすることが多い『彼』はこの手の場所の噂話も良く知っている。


「成程、つまりお偉いさんのお得意の、名誉やら人々の期待やらで釣るだけ釣って死んで来い、という奴だな」

「あぁ……まぁ、身も蓋もないが、間違ってはいないな」


 苦笑したアジェリアンがセイネリアの隣に立って空を見上げる。


「一雨くるか」

「いや、ぎりぎり持ちそうだぞ。降ったとしても小雨程度だろうな」

「そうだと助かる」


 言いながらアジェリアンはその場に座り込んだ。

 セイネリアはそれを見下ろして軽く笑う。


 騎士団が傭兵を募集する場合、基本的に騎士団の1部隊10人程に対して10~20人程度の傭兵部隊をつけて共に行動させるのが普通である。であるから最初から10人以上のパーティで申し込めばそれを一部隊として扱ってくれ、あまった数人を押し込まれる事はあってもパーティリーダーをそのまま部隊の責任者としてくれる事になっていた。

 だからセイネリアは今回の仕事の情報を真っ先にアジェリアンに教えた。

 彼はもともと化け物退治より地方で起こった小競り合いの傭兵や、盗賊討伐の仕事を多く受けていたと聞いていたし、上級冒険者としては仲間を多く引き連れている訳でもない事も聞いていた。こちらと合わせて一部隊としないかという提案は二つ返事で了承され、彼のパーティーとこちらのパーティを合わせたメンバーで申請したという訳だ。

 化け物退治と違って戦場なら相手は能無しの馬鹿ではない。足を引っ張るような連中とは組みたくないのは当然で、出来れば『使える』のが分かっている者と組みたいというのは誰でも思うところだ。


「槍騎兵隊の戦いを見た事はあるか?」


 暫く黙って辺りを眺めていたアジェリアンにそう聞かれて、セイネリアは即答で返した。


「いや、見た事はない。なにせ砦の防衛戦参加は初めてだ」

「はは、そうだったな。お前があんまり落ち着き払ってるから、つい何度も来てるような気がしてな」

「別に、化け物だろうが、人間だろうが覚悟は変わらんさ」

「まぁ、お前はそうなのかもしれないがな……だが普通、相手が人となるとまったく心構えが別になる」

「かもな、なにせ俺の場合、人殺しも初めてじゃない」

「……そうか。いや、そうだろうな」


 それに表情から笑みが消えたアジェリアンだったが、そこで追及してこようとしてこないところは彼も自分が『人殺し』である自覚があるのだろう。


次の更新は月曜日

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