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黒の主  作者: 沙々音 凛
第六章:冒険者の章四
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34・真っ向

 騎士の影は構えて、剣を突き出し、切り返して引いてから勢いよく踏み込むと同時に鋭くまた突きを繰り出す。一心に剣を振っていた騎士ザラッツは、セイネリアが近づいてもこちらを見ずに剣を振っていた。

 ただし、一定の距離まで近づいてからセイネリアは一度足を止めてカリンに言った。


「お前はここにいろ」


 それから一人で更に近づいてゆけば、気づいているだろうに無視を決め込んでいた騎士が唐突に踏み込む方向を変える。

 セイネリアが抜いた剣に、ザラッツの剣が当たる。

 笑っているセイネリアを見て、真面目すぎる騎士はすぐに剣を引いた。


「不意打ちとはらしくないじゃないか」

「そうですね、でも実戦では正々堂々と戦って負けるより、どんな手を使っても勝つ事の方が重要だと思うくらいには勉強しました」

「なるほど、流石に勉強熱心だな」

「えぇ、どれだけ高尚な目的があったとしても、負ければ何も認められません」


 それにふん、と鼻で笑ってセイネリアは騎士の顔をよく見た。

 実を言えば、こうしてグローディ卿の屋敷に滞在していた時点で、いつザラッツが勝負をしろと言い出してくるのかとセイネリアはずっと思っていた。それがなかった事で少しだけセイネリアはこの男を見直してもいた。まだ勝てない、と自分を抑える程度の事は出来るようだ、と。


「少しやるか? なに、遊び程度だ、別に勝負をする気はない」


 だからそう言ってしまったのは、今は少しばかり気分が良かったからだ。

 ザラッツは暫く黙っていたが、大きく息を吐き出すと目に力を入れてこちらを見た。


「そうですね、ぜひ」


 別に試合ではないから、合図もなく。適度に距離をとってから構えれば相手も構える。そういえば剣でまともにやるのは久しぶりだと思ってから、ザラッツの顔が集中していく様子を確認し、目がこちらを強く見据えてきたところでセイネリアは踏み込んだ。

 力を入れて振り落とした剣を、ザラッツは受ける。

 けれど力を全部は受けきれない。彼の剣は下がる。

 それでも歯を食いしばって耐えると、彼はぶるぶると震える顔から、がぁっと声を出すと同時に剣を横へ流して後ろへ下がった。

 既に肩で息をしている騎士は、それでも大きく呼吸をすると構えた剣先をぴたりと止めた。それからセイネリアを睨むと、今度は向うから仕掛けてくる。

 真っすぐ伸びて来た剣がセイネリアの顔の横を掠める。そのまま首を斬るように薙ぎ払おうとした剣は、だがセイネリアの剣に既に止められていて叶わない。だから彼は一歩引いて再び突きを出す。それはセイネリアの剣に弾かれ、近づきすぎたと感じた彼が身を引くより早くセイネリアの足が彼の横腹を蹴り飛ばした。

 ザラッツはたまらず横に吹き飛ばされる。けれど、地面に倒れはしない。

 歯を噛みしめて、顔を真っ赤にして、倒れるのを耐えると剣を横に払ってセイネリアの追撃を阻止する。セイネリアは笑って一度引くと、彼がどうにか構えるのを待って再び剣を振り落とす。ザラッツは受けたが、先ほどより腕に力が入らないのか、剣はすぐに押されて下に落ちていく。


「くそっ」


 それでもザラッツは諦めない、一か八かで剣を持つ手を勢いのまま下に落としてから、左手で掴んだ柄の先を押しててこの原理で剣先を上げる。セイネリアはそれを避けるために一歩引いた。

 そのまま彼は剣を持ち上げてどうにか顔の横に構えたが、その腕が震えているまま止まらないのをセイネリアは確認すると剣を下した。


「今日はこんなところでいいか」


 言われたザラッツはそれで剣と共に腕を下すと、途端に呼吸を荒げてがくりと膝をついた。


「やっぱり……化け物じみた力ですね」


 剣を支えのようにしてどうにか体勢を維持している男は、そういうと気合いを入れて立ち上がった。


「まさかまた馬鹿正直にまともに受けるとは思わなかったがな」

「えぇ……これは勝負ではありませんからね、貴方の剣を……もう一度、先入観なしで真っ向から受けてみたかっただけです」


 ザラッツの息はまだ荒い。けれども彼の目はきっちりとセイネリアを見据えている。

 セイネリアの唇には自然と笑みが湧く。


「成程、満足したか?」


 聞けば、彼も笑って、どこかさっぱりした顔で空を見つめた。


「いえ……まだまだそちらに余力がある段階でまったく相手になりませんでしたからね、やはりまともに受けるのは無理なんでしょう。ですが……諦めがついた分無駄ではなかったと思います」


 セイネリアは剣を鞘に納めた。


グローディ卿の屋敷なので、この人とのやりとりもないとね。

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